めしいらず

山猫のめしいらずのレビュー・感想・評価

山猫(1963年製作の映画)
3.8
新しい時代の波にいずれ淘汰されることをちゃんと理解している斜陽貴族の悲哀。彼らの存在を、為してきたことを、時代遅れだと放擲するのは容易い。民衆が力を得、権利を主張し始めると兎角自制が利かなくなりがちだ。貴族たちが永い年月をかけて育んで来た政治力や文化、民との関係性。これまでは恩義を感じ敬愛している彼らのもとだから民は己を律することが出来ていた側面もある。もちろん行き届かないところもあった。だからと言って民のことを思い為してきたことをひっくり返されるのは辛いものだろう。それでも時流は止めようがない。民衆の中で力を得た者が成金や軍人として貴族の輪の中に紛れ込んでくる必然。彼らは己の財力や戦果を誇示しその下劣な品性をさらけ出す。勃興したばかりだから拠り所がそれしかないのだ。心が波立たぬ訳ではなくともそれを黙して受け入れるしかない。少しずつ自分たちの居場所が減り、いずれ彼らが時代を作り上げていくのだ。人は変わることを是としがちであるけれど、変わらないことが直ちに否とはならない。滅びゆく運命を静かに受け入れた主人公の横顔に美学を垣間見る。
30年ぶりに再鑑賞。貴族出身であることを恥じ生きて来たヴィスコンティが、ひと年取って己の出自やその意味を受け入れたようにも感じられる。もう言われ尽くしているけれど、舞踏会や晩餐会はもちろんのこと、彼が本物の貴族であるからこそ可能だった映像の迫真性が無類だ。
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