カルダモン

砂の惑星のカルダモンのレビュー・感想・評価

砂の惑星(1984年製作の映画)
4.8
小学生の頃に親の影響で観てしまったこの映画。物語を理解するのはそれからだいぶ後だったけど、強烈なビジュアルは物語以上の意味を持っていたように思う。冒頭のナビゲーターが来訪する場面からして異色極まりなく、悪趣味全開のイメージが脳を直撃する。ハルコネン家の惑星ギエディプライムの凶々しさグロテスクさも飛び抜けている。舞台が惑星アラキス(=デューン)に移動してからも、荒涼とした砂漠の風景と装飾過多の室内の対比にクラクラする。果てしない海のように見える砂漠の向こうから、サンドウォームが押し寄せる迫力は、当時自宅の小さいテレビでさえ迫力を伝えるものだった。

そんなわけで一歩引いた目線で語るのは難しいんだけれども、ヴィルヌーヴ版『DUNE』の公開に合わせて久々に見直してみたのですが、やはり今の目で見ても美醜の度合いとデコラティブな美術が振り切っていて素晴らしい。だからニガテな人はとことん受け付けないというのも理解できる。私としては心に引っ掻き傷を残すような、得体の知れない映画体験は大歓迎で、デヴィッド・リンチ×SFの組み合わせはこれ以上ないほど功を奏したと思っております。

監督本人が失敗作と認識してるという話もセットで語られてしまう本作ですが、それは創造物としての魅力であるとか、おそらく映画を作る姿勢やビジョンの話ではない。特にビジュアル面については一切妥協がない。ここでの失敗というのはつまり上映時間や編集やレイティングなど、興行するに当たっての障壁が幾つもあった結果、十分とは言えない仕上がりになってしまった、ということだと個人的には思っております。客がついて来なくてもやりたいようにやってくれた方が一鑑賞者としてはエキサイトするし、客に目配せして無難に纏められたものよりは数段魅力的に映りますから。まあでも映画は監督の独りよがりで成り立つものではなく総合芸術であることも事実で、なかなか全てをうまく機能させるのは難しいということなのでしょう。特に膨大な世界観を描いたSF大作となれば余計に。あくまでも私個人の気持ちとしてはリンチの創出したビジョンを最大限に評価したい、ということだけです。

独自の用語や複雑な関係、あるいは置かれた状況などなど説明不足にも程があるのだけど、何度も見ていれば想像力が補完してくれる。
この映画ではビジュアル面が強い印象を残しますが、サウンド面もまた強烈でした。TOTOとブライアン・イーノによるメインテーマはこの映画を数段リッチなところに押し上げているし、もちろん声で攻撃する武器やサンドワームを誘き寄せるサンパーの鼓動など、音が重要な役割を果たしています。細かいところでは翻訳機のボイスエフェクトや、背後で鳴っているノイズであったり、デヴィッド・リンチの音の趣味というのも聴き逃せないあたりだと思います。



補足
現在U-NEXTで配信されているものについては字幕の酷さが凄まじいのでオススメできません。ただでさえ訳の分からない会話が一層複雑になって、話の展開を知っていても見失いそうになります。
自動翻訳の仕業か、誤字脱字が目立つ上にほとんど直訳なので、字幕スピードに目が追いつかないというのも難易度上げてます。