しゅん

アイム・ノット・ゼアのしゅんのレビュー・感想・評価

アイム・ノット・ゼア(2007年製作の映画)
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これは伝記映画ではない。観客がディランを生きる映画だ。ディランを生きること、それは六人分の人生を生きること。混乱を生きること。罪にも神にも手を伸ばすこと。女を愛し女を憎むこと。黒人になり女になること。列車に飛び乗り、煙草を吸い、ランボーを気取り、インタビュアーを嘲笑う歌を歌い、映画に出て、パーティー会場でゲロを吐き、世捨て人になり山で犬を追いかけ、病室でウディ・ガズリーを看取り、アレン・ギンズバーグと車越しに語り合い、フランス女と離婚調停の後にセックスすること。映画の中ではボブ・ディランの名前もユダヤ人ロバート・アレン・ツィマーマンの名前も一切出てこない。何故なら彼はそこにいないから。他人が規定する自己同一性がどこまでも欺瞞であることを暴き続けたディランの本質を、この映画はしっかりと見据えている。

食器を上からまっすぐ見下ろす映像とタランチュラのイメージが焼きつく。伝説の大ブーイングライブのやかましい感じが最高だった。音源聴いたときには過激に聞こえなかったディランのロック化が映画の中だとめっちゃノイジー、当時のフォークファンがキレるわけだ。
擬似ドキュメンタリー風のシーンでキムゴードン出てきたところは笑いました。
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