さとり

歩いても 歩いてものさとりのレビュー・感想・評価

歩いても 歩いても(2007年製作の映画)
3.9
まるで、監督が幼少期に見てきた家族という光景を描いているよう。きっと監督はあの映画の中に出てくる子どもように、大人たちの会話を黙って、視線だけは動かして聞いているような孫として育ったのかな。おばあちゃんの、おじいちゃんに対する愚痴や、おばあちゃんの家で、一家川の字になって寝ることを体験して。
それをした子どもが大人になった今、物事を俯瞰して見つめ直した時に、あの長い一日を撮ることにしたんだと思う。
何か、その1日に尊い瞬間が心のどこかに残ってて、それを物語にした。
「歩いても 歩いても」という既存の歌詞は、子どものころ禁断の何かから聞こえてきた音楽であるのか。それとも、テレビやラジオから唐突に、衝撃的に聞こえてきたのか。
作者の生活背景に想いを馳せてしまう。

でもきっと、あれが普遍的な家族の時代はもう終わったのかもしれない。色んな家族の形があるし、みんなで天ぷら作ったりうな重頬張ったりした思い出が無い人もいるかもしれないし。だけれども、それぞれに家族というものはあると信じてる。
その自分の家族や故人を思い出すのには丁度いいのかもしれない。

話は変わり、物語は基本的にクスクス笑える微笑ましい展開であると思う。しかし、後半に差し掛かったとき、誰も笑えない、笑って誤魔化すことができない、時が解決しようとするのをわざと食い止めているシーンがある。
それは樹木希林が一点を見つめ、淡々と信念を話すシーンであって、それが忘れられない。その時の樹木希林はどこかで下を向いたことのある貴方の代弁者であると思う。

やっぱり「夏」には、三者三様の想いがある季節なのだなと再認識。

この映画を観て、是枝節がわかった。是枝節は、その時の観客の心情に寄り添うギター音楽が流れることであるかと。
ほとんど音無で過ぎて、時に優しい音楽がポロンポロン。どうして現実はこんなになのに、音楽は優しいのだろう。憎みたくなるほどです。
さとり

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