未島夏

おもひでぽろぽろの未島夏のレビュー・感想・評価

おもひでぽろぽろ(1991年製作の映画)
4.2
「親の心子知らず」なんてよくもあっけらかんと言えたなという話で、親だって昔は自分が子供だった癖にちっとも自分の子の気持ちなんて分かろうともしない。
いや、親心という大義名分を振りかざすのに必死で、何も見えていない。

分数にまつわるエピソードはひたすらにタエ子が感じてきた息苦しさを物語る。
分数の割り算が簡単に出来てしまったあの子や、電話越しで昔話の蟠りを小さな事と言ってのけてしまう姉なんかには死んでも分からない葛藤。

ラストで大人のタエ子の腕を掴む10才のタエ子。
それは精一杯のないものねだりや我が儘では為す術の無かった自らの境遇から、ようやく自分の足で踏み込み飛び出せる瞬間を迎えた事へのとてつもなく大きな願い。
静かに促す様に、無垢な表情で腕を掴む10才のタエ子に、ようやく大人のタエ子は素直へと歩み出す。
10才の蟠りが、渇望した田舎の風景に解けていく。

この映画そのものが、満たされない日々を重ね上手く生きられない全ての人に寄り添い居場所となる、温かな田舎の様な存在なのだと思う。
「かわいそう」と真正面から言われる事が救いになる人だって、きっとたくさん居るのだから。
未島夏

未島夏