Fitzcarraldo

シン・レッド・ラインのFitzcarraldoのレビュー・感想・評価

シン・レッド・ライン(1998年製作の映画)
4.3
アメリカで最も権威のある文学賞の一つである全米図書賞(National Book Awards)で、 "From Here to Eternity"(地上より永遠に)が第3回(1952年)小説部門を受賞したJames Jones。

自らのガダルカナル島の体験を反映させて書いた戦争三部作のひとつである"The Thin Red Line"(1962)の二度目の映画化。

一度目の映画化は1964年に同名タイトルでBernard Gordonの脚色、Andrew Marton監督。

二度目の映画化となる本作は第49回ベルリン国際映画祭(1999)金熊賞を受賞し、20年ぶりに監督へ復帰したテレンス・マリック脚色・監督作。

たった2作の監督作で映画界に風穴を開けたテレンス・マリックが、パタリと監督業をヤメてパリへ移住して長い長い隠遁生活を送る。

それが20年ぶりに撮るともなれば、どだいなスターであろうが、みんなして出たい出たいと手を挙げて殺到するのも分かる気がする。

そのお陰でキャスティングの潤沢さ、選手層の厚みが尋常じゃない。いちいち列挙するのは割愛するが、他の作品であれば各々がメインを張れる人たちばかり…まるで売出し中の若手みたいな使われ方をしているスターたち。やはりちょい役だろうが華がある。


韓国のインディペンデント映画誌「FILO」に掲載された蓮實重彦氏のインタビューを抜粋する。

「しかし、合衆国には、スコセッシ以上に過大評価されている監督たちが少なからず存在しております。たとえば、『ツリー・オブ・ライフ』(The Tree of Life, 2011)のテレンス・マリックTerrence Malickなどがそれにあたります。画面設計と編集のリズムという点で、彼がマーティン・スコセッシよりも才能がある監督であるのは間違いありません。彼は、ごく普通のショットがごく普通に撮れる監督だからです。しかし、不幸なことに、彼は普通のショットとは異なる画面を撮りたがる。たとえば、『シン・レッド・ライン』(The Thin Red Line, 1998)の戦闘場面はみごとなものだといえますが、兵士の妻たちの挿話がその中に挿入され、いくぶんか非=現実的なその光景がすべてを台無しにしてしまうのです。『ツリー・オブ・ライフ』にも同じことがいえます。一応は現実的な光景と呼ばれるものの中に、ときおり想像的な光景が挿入され、それが作品から画面の緊張感を奪ってしまうのです。わたくしがテレンス・マリックを信用できないのは、むしろそうした想像的な画面の挿入にこそ自分の作品の真価があるかのように錯覚している点によります。
 ある意味で、彼は役者というものを信頼していないのかも知れません。役者への信頼とは、彼ら、彼女らの演技力を信頼することにとどまらず、彼ら、彼女らが画面上でおさまるフィクションとしての存在感に対する信頼にほかなりません。キャメラの被写体としての役者は、しかるべき芸名を持つ職業的な俳優でしかないはずなのに、撮っているうちにフィクションの人物としての枠を超えて、撮られることで未知の存在感を帯びてくる。そうした瞬間がテレンス・マリックの画面からは感じとれないのです。」

「兵士の妻たちの挿話がその中に挿入され、いくぶんか非=現実的なその光景がすべてを台無しにしてしまうのです。」確かにここの部分が、何度も何度もインサートされ、その度にリズムが失われていたし、そのシーン自体か冗長に感じられ、公開当時に見たときは寝てしまった…。

しかし20年ぶりに見返してみると、あらやだ?いいじゃないの?!ちょいとしつこいかなとは思ったが、いやいや決して台無しにはなっていないように思う…。あのしつこいインサートがあったからこそ、嫁の手紙が活きてくるのだと思うし…

大尉を好きになったから離婚して欲しい…って!銃後の守りは?!しかも、また軍人かよ?!寂しいからって…

それよりも、むしろ台無しにしてるのは、島に住む原住民とのシーン。ここは全てカットでいい。なんで英語喋れるのか意味分からんし、なにしろ171分の本編が長過ぎるので、この原住民との絡みは切ってスッキリさせた方が良かっただろう…

原住民のような生き方が人間のもつ本来の生き方なんだ…というメッセージなのか?真の狙いが何かはわからないが、余計な付け足しに感じた。

あと後半の川のシーンもカットかな…

米軍が丘を取り、日本軍の野営地も制圧し、圧倒的に優位なはずなのに、なぜか呑気にノープランで浅瀬の川を上る米軍。どこかから攻撃され、敵との距離を測るために斥候を命じる。

敵との距離どうこうじゃなくて、その作戦は危険だと部下が提言するも、逆ギレ。そこでJim Caviezel演じるウィット二等兵が名乗り出て、斥候役に。

完全装備の増強部隊の日本兵が、わんさか川上から現れる…ガダルカナル島はガ島(餓死の島)と揶揄されるほど、補給も絶たれて、追い込まれているはずなのに、こんな完璧な部隊なんて、日本側にいないんじゃないかな?まっさらで、いま来ましたみたいに汚れてもなくて…

で、そいつらにウィット二等兵は囲まれてしまうのだが…すぐに殺されないで、ひとりの日本兵が「降伏しろ!俺はお前を殺したくないんだ!分かるか?降伏しろ!…お前か?オレの戦友殺したの?降伏しろ!」

ん?これ日本の役者さん?ずいぶんと下手くそなんだけど…しかも、生きるか死ぬかの闘いしてるはずなのに、こんな呑気なこと言わねぇだろ!
たっぷりたっぷりと間を取ってから、ウィットは銃を構えようとして結局撃たれる…

ここの件りも全部カットでいい。


ガダルカナル島での激戦…

日本軍は丘にトーチカなんか作る余力はあったのか?機関銃なんか持ってた?想定外で米軍に急襲されて、逃げるように退散したはずだけど…

「上陸戦において、アメリカ軍側公刊戦史は小銃、機関銃数挺、70粍山砲(歩兵砲)及び75粍山砲各2門、弾薬、ガソリン、燃料、使用可能なトラック35台を含む自動車と電波探知機2台、糧秣多数を鹵獲したと伝えている。」

鹵獲(ろかく)は、戦地などで敵対勢力の装備品(兵器)や補給物資を奪うこと。

急に退散しといて、丘にトーチカなんか作るかな?米軍に占拠された飛行場の奪取が、当面の目標であるはずなのに、トーチカ作って腰を据えるのは違うんでねぇの?ゲリラ戦法で2方面から飛行場に急襲したはずだけど…守備隊の前線としては間違ってないのかな?戦史には詳しくないが、米軍がまるで二百三高地のような攻め方をしているように見える。犬死に覚悟で登り続けるだけという…


トーチカ攻略の志願者である七人の米兵侍…日が高くなってから丘を登るのは丸見えでは?日が暮れれば全く見えなくなるわけだから…そっちの方がよくね?

戦争体験者の話にあったが、アメリカ兵は夜になると休みだと…だから、夜になったら煮炊きができると言っていたが…そういうこと?

生きるか死ぬかの最前線でも、そうだったのか?あえて丸見えの昼間に攻略しようとしなくても…

ここで丘の上から放たれた弾道が、カメラ横をピシュン!と通過する。この光る弾道はCG?それともホントに撃ってる?これが2発くらい画面奥から飛んでくるのだが、素晴らしいリアリティ。

動の戦闘シーンも素晴らしいのだが、静の戦闘シーンも素晴らしい!これはサバゲーで遊んだ経験も大きいと思うのだが…木々や草や土のフィールドに迷彩服で潜まれたら、ホントに何も見えない!一番最初のゲームで調子に乗っていぇーい!ってどんどん進んでいったら、撃たれる撃たれる!しかもどこから撃たれてるのかも全くワカラナかった。

これが実弾であったら…とイメージするだけで恐ろしい。なぜサバゲーが流行ったのか、やってみたらストンっと腑に落ちた。些細な音や、動きをも見逃さない集中力。心臓がバックンバックンして、五感をフル使用している感覚もある。少しでも気を抜くと、自分が殺られてしまうという日常では味わえない緊張感がここにはある。

このサバゲーの感覚で、本作の戦闘シーンを見るとホントに素晴らしい!あのバックンバックンが蘇ってくる。ガチャガチャ動きのある激しい戦闘よりも、笑い待ちというのか、バックンバックンさせる待ち時間が設けてあるというのか…

匍匐前進して進んでるだけの静かな画が、とにかく素晴らしい!この静かなシーンは、サバゲーをやってなかったら退屈なシーンだと捉えて寝てしまったかもしれない。

このシーンを見るだけで、サバゲーやりたくなる!


○日本軍の野営地
制圧する米軍

ナレーション
「この大きな悪 どこから来たのか どこからこの世に? どんな種 根から生まれたのか 背後に誰が? 俺たちを殺し 生と光を奪ってるのは誰か 幸せを奪い 面白がっているのか 俺たちの死が地球の糧に? 草を成長させ 太陽を輝かせるのか? あなたの中にも この闇が? あなたにも苦悩の夜が?」

あまりナレーション多用するのは好きではないが、この言葉はとても素晴らしい。


光石研
「キサマも死ぬんだよ…」と、同じことを何回も繰り返す光石研。この違和感は何だろう?…この場面でそれを言うかなぁ…んんん〜ぅ…何も言わずに顔だけか、せめて一度でいいんでねぇの?



○米軍本拠地
Elias Koteas演じるスタロス大尉がヤワという理由で解任。
そして隊は一週間の休暇に…
スタロスが部下たちに挨拶…

Elias Koteas
「つらいのは…自分が正しいのかが、分からないことだ。だが今は…どうでもいい。解放された。うれしい」

自分の選択によって部下の命が左右される。自分の隊の命だけ守ろうとしても、大きく見てアメリカが負けたら意味ないわけだし、苦悩の葛藤するのも頷ける。


ナレーション
「こびりつく戦闘の恐怖…それに慣れることはない。戦争が人を気高くする?人間を獣にする。そして魂を毒する」



John C. Reilly演じるストーム軍曹
ストーム
「どんなに訓練を受け用心しても…生か死を決めるのは運だ。どんな人間か、タフか、そうでないかは無関心。運悪く、そこにいた奴が殺られる」

運悪く…そこに、たまたまいた奴が…このストーム軍曹の言葉通りの戦闘シーンになっている気がする。ドラマを起こすためだとか、スケジュールがないから、早めに殺すとか、そういう裏の事情はあまり感じず、運悪く死んだように見える。これはまたどんな演出力なのか!

とにかく戦闘シーンは全て素晴らしい!
同年公開の"Saving Private Ryan"のオープニングのノルマンディー上陸シーンも素晴らしいが、静と動が折り合うシンレッドラインの方が上かもしれない。


このジム・カヴィーゼルの顔がめちゃくちゃカッコイイのと、ショーン・ペンの声がめちゃくちゃカッコイイのが印象深い。少し鼻にかかったというのか?低くてよく通る声。大勢の部隊でのアンサンブルをしようが埋もれることなく、クリアに際立つ。スター揃いを向こうに回しても別格な存在感は素晴らしい!ジムは顔だけ。

あと70分短くしてくれたら…最高!
Fitzcarraldo

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