アニマル泉

日本春歌考のアニマル泉のレビュー・感想・評価

日本春歌考(1967年製作の映画)
4.3
大島渚は「再現」する。本作では少年たちが469番(田島知子)を犯す妄想が再現される。「再現」されるとどうなるか?「死」が待っている。「絞死刑」では処刑され、「東京戰爭戦後秘話」では自死する。本作はアナーキーだ。殺人である。本作には曖昧な殺意が通底している。荒木一郎は伊丹十三を見殺しにする。小山明子にその場面を「再現しろ」と要求されて荒木は小山を犯す。殺意と強姦が一体となる。そしてラストの「再現」の完成で殺意が実現する。「若者たちは社会的抑圧のなかで宙ぶらりんである」大島のテーゼだ。本作では宙ぶらりんは殺意の実現というアナーキーな形で突破される。
「歌」と「日の丸」の映画である。タイトルバックは黒地に赤が滴り日の丸になる。冒頭は大雪の東京だ。一面の雪のグランウンドを四人の学生服がカラスのように歩くショットが美しい。学生達は黒い日の丸が翻る紀元節反対のデモに巻き込まれる。酒場で伊丹十三を学生達が囲む。日の丸が掲げられて軍歌を合唱する酒場だ。ここで初めて伊丹が春歌を歌う。しかし軍歌にかき消される。日の丸はラストの教室にも掲げられる。赤い日の丸と黒い日の丸が並んで掲げられる。「かき消される」主題も頻出する。469番の自宅は広大な邸宅でベトナム戦争反対のフォークソング大会が開かれていて春歌とフォークソングがかき消し合う。邸宅には大きな池があり、さまざまな国旗が掲げられている。夜なので篝火がたかれ、水面に景色が反転して映える。「水」と「火」も大島の重要な主題だ。ラストの教室では小山明子が叫ぶ天皇の血筋を学生たちの春歌がかき消す。「日本人の故郷は朝鮮です」という決定的なセリフが春歌でかき消される。大島は「春歌は民衆の抑圧された声である」と言う。大島が追求してきた民衆と国家のテーマが本作では春歌と日の丸に結実する。
大島の「赤」の主題も鮮烈だ。469がいつも握っている赤いスカーフ。荒木が小山を通夜で犯す場面は白と赤になる。「儀式」につながっていく。鮮烈なのは吉田日出子の処女の血だ。池に浮かぶ赤が象徴する。
荒木一郎が素晴らしい。荒木は立ち姿がいい。女学生たちが伊丹が死んだと大騒ぎしている奥の壁に荒木が立つ姿がいい。あるいは吉田日出子が小山明子に公衆電話する奥の塀に立つ荒木、学生服の裏地が赤なのが見えて無造作に立っている。どちらの場面も荒木が核心の人物なのだが、手前ではなく奥にいて、あれだけの存在感を醸し出すのには恐れ入った。東京の都会をバックに小山と荒木が延々と歩くトラックショットも忘れがたい美しいショットだ。
大島の「空間」「密室」という主題も考えさせられる。最後に全員が集合する。大島独特のスタイルだと思う。
松竹と創造社の製作。カラーシネスコ。松竹はよくこの企画で大島に撮らせたと思う。
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