秋日和

キートンの恋愛三代記/滑稽恋愛三代記の秋日和のレビュー・感想・評価

4.0
クリント・イーストウッドは自らの身体に傷をつけることによって映画を撮り上げてきた人である、と言われることがある。では、バスター・キートンはどうかというと、彼もまた自らを痛めつけることで笑いを産み出してきた人であると言ってもいいかと思う。車が大破しようが、崖から落っこちようが列車に引かれそうになろうが、「どうってことない」とピンピンしている彼を観て、こちらも安心して笑うことが出来る。キートン映画を観るときのお約束である「彼は不死身の存在」というのは絶対的であり、決して揺らぐことはない。今までそう思っていた。
本作は、キートンが痛めつけられる映画である、という点に於いてはいつもと変わらない。けれど、痛みの先にある「死」が僅かに、ほんの僅かに見えてしまう作品であると自分には思えてしまった。
そのせいだろうか、身分や体格に差がある敵に颯爽と(ときにはズルをしながら)立ち向かっていくキートンの姿に涙ぐんでしまった。本来は笑うべきなのに、どうしてか視界がぼやけて仕方がなかった。
そんな自分の勝手な思い込みをよそに、映画は幸せな方向へと向かっていく。マイク・ニコルズの『卒業』は二人の不幸せを予感させているが、世の中そんなに捨てたもんじゃないんだよと言わんばかりのハッピーエンドが本作には待ち受けているのだ。
秋日和

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