岡田拓朗

パンズ・ラビリンスの岡田拓朗のレビュー・感想・評価

パンズ・ラビリンス(2006年製作の映画)
4.1
だから少女は、幻想の国で永遠の幸せを探した。

「シェイプオブウォーター」で第90回アカデミー賞作品賞、第90回アカデミー賞監督賞を受賞されたギルレモデルトロ監督の作品。

個人的には、シェイプオブウォーターに並ぶ、もしくはそれ以上で今作の世界観が好き。

内戦後のスペインを薄幸に生きる一人の少女オフィリアを軸に、現実世界と幻想の世界を、行き来しながら物語が展開されるダークファンタジー。

内戦で父親を亡くしたオフィリアは、母親カルメンとともに再婚した父親ヴィダル大尉のもとに行くこととなる。
内戦で勝利した陣営を取り仕切っていたヴィダル大尉は、その地位と権力を盾に、必要以上に多くの人を虐げるような人であった。

カルメンのお腹の中には、ヴィダルとの間に授かった赤ちゃんがおり、産まれてくる赤ちゃんは男であるとヴィダルが確信していたため、ヴィダルはオフィリアには見向きもせずに、赤ちゃんに手をかけ続けるのである。

冷酷で傍若無人のヴィダルのことを怖がり嫌っていたオフィリアは、おとぎ話がとても好きで、妖精がいることとおとぎ話の世界が存在することを信じていた。

そんな中で、オフィリアに不思議な現象が度々起こるようになり、目の前に妖精が現れ、そのおとぎ話の世界に導かれていくのである。
そこで、迷宮の番人であるパンと出会い、オフィリアは王女であることを告げられ、3つの任務を遂行するように伝えられる。

現実の中では、内戦が終わってもレジスタンスは続いており、その中での厳しい現実と自身の望みが叶うかもしれない幻想の世界が行き来していく展開。
オフィリアは、大人により巻き込まれた現実世界の中で、現実逃避するかのように、幻想の世界に度々引き込まれ、永遠の幸せを探していた。

その裏で繰り広げられる現実世界での裏切り行為などから来る残虐や救いようのない様の描き方は容赦がなく、だからこそおとぎ話の世界もオフィリアの中では闘いであったが、うまく現実世界と対比されるように描かれている。

裏で展開されている恋愛模様など、物語に深みを与える描写にも抜け目がなく完成度が非常に高い。

そして圧巻なのはラストシーン。
パンからの最後の任務を遂行しようとするオフィリアとそれを阻止しようとするヴィダル大尉。

純粋無垢で大切な赤ちゃんを守ろうとするオフィリアと自分に必要のないものを全て消す残虐な行為をし続けるヴィダルを対比するように描き、現実では亡くなってしまったが、オフィリアがその先の永遠の世界を手に入れた。
逆に何も残らずに亡くなるヴィダル。

ハッピーエンドと捉えるか、バッドエンドと捉えるか、はその人次第だと思うけど、オフィリアが夢見て行きたいと望んでいた世界に結果行けて、王女になり、幸せな永遠の国を築くことができたことは、彼女にとってのハッピーエンドではないか、と個人的には結論づけた。

それにしても今作のラストまでの持って行き方とラストに込められたメッセージ性の高さとその表現の秀逸さ、これを引っ括めての世界観にとても惹かれた。

人として幼き頃には芽生えていた純粋無垢で人を傷つけたくないという気持ち、ただ守りたい、その人のためになりたいという気持ちが美しい。

大人になったら忘れてしまいそうなこの気持ちをそんな大人と対比するように描かれていた少女オフィリアと望んだことに終結したラストの展開は、デルトロ監督の優しさでもあり、理想でもあり、オフィリアは偶像であるように思えた。

P.S.
キャッチコピーもとても好き!!
わりとグロめな描写が意外と多いので、苦手な人は鑑賞をおすすめしないです。
岡田拓朗

岡田拓朗