しゅん

鉄腕ジムのしゅんのレビュー・感想・評価

鉄腕ジム(1942年製作の映画)
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最高…。ボクシング映画だが、ジェームス・J・コルベット演じるエロール・フリンは努力のかけらも見せない。最後の最後まで、狡猾なお調子である「軽薄なアイリッシュ」としてしか登場せずに練習風景は一切見せない。むしろ、ライバルのジョン・L・サリバンのトリーニングは映される。しかし、序盤で父親が「ジムは誰よりも努力家だ」とさりげなくいっている。練習してないのではなく、練習してるところを絶対に映画で見せないのだ。この徹底した不可視性。観られるのは『バクダットの盗賊』でも確認できた大群衆の狂騒と上下の位置関係の強調、そして試合中何度も映す足元だ。

この映画の物語は実話で、コルベットは近代ボクシングの生みの親として知られている。その特異性を、拳のスポーツを撮るときに脚を撮るという映像としての特異性に結びつけている。なにより、港に作られたリングでのコシンスキ戦が素晴らしい。船着場と船の間のリングに溢れる人々、そこで試合とシンクロする観客達の動き。勝利の後に舞う帽子と、警官が来た後のダイブの嵐。こんなに爽快な興奮!コシンスキの俳優の方が、サリバン役のワード・ボンドより強そうなのも含めて、最高の名シークエンス。『高慢と偏見』ばりのツンデレラブストーリーもアイルランドの家族の描写も秀逸。ほんとにいい映画。騙されたと思って観てくれ。
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