ひろぽん

ヒトラー 〜最期の12日間〜のひろぽんのレビュー・感想・評価

ヒトラー 〜最期の12日間〜(2004年製作の映画)
3.5
第二次大戦中のベルリンでは佳境を迎え、迫りくるソ連軍の砲火を避けるためヒトラーは身内や側近とともに首相官邸の地下要塞に潜っていた。誰もが敗戦を覚悟する中、冷静さを失い狂人と化していたヒトラーは、ある重大な決断を下す。第二次世界大戦で敗北まで秒読みになっていたナチス軍のヒトラーが自害するまでの12日間を描いた物語。

ヒトラーの秘書であったトラウデル・ユンゲの証言と回想録を基にナチス・ドイツのヒトラーや敗戦間際の状況が描かれる。


原題の『Der Untergang』は
「没落」や「失脚」を意味する言葉。

邦題のタイトルからだとヒトラーを中心に物語が展開されていくかと思いきや、実際にはヒトラーに振り回された周囲の人達を中心に物語が描かれる。

ヒトラーに関しては、自信満々に演説を行ったり、多くのユダヤ人の大量虐殺「ホロコースト」を行ったイメージが強く冷酷で強気な独裁者という印象だった。だが、本作のヒトラーは、完全に判断力を失い、部下の助言にも耳を貸さず、癇癪を起こして怒鳴り散らし、追い詰められていても最後まで強きドイツの幻想を抱いていた、狂気そのものだった。その反面、女性や身内にはとても優しい紳士的な振る舞いをしており、人間味溢れる人物として描かれている。

得体の知れない残酷な悪魔というより、ヒトラーの様に誰にでもなりうる可能性があるというのだから本当に怖いなと思った。

彼1人の責任ではなく、民主主義でドイツ国民から圧倒的な支持を得て、国民が熱狂や盲信していたことにも原因がある。


“私たちを選んだ国民にも責任がある”

“戦時に市民など存在しない”

“我々は国民に強制はしてない
彼らが我々に委ねたのだ 自業自得だ”


すべての責任を国民に帰属させるのはどうかと思うが、あながち言ってることも間違いではないのかもしれない。1人の孤高のリーダー像を作り上げた民主主義の怖い部分でもある。

ヒトラーの後を追い自決する者、逃げ出す者、逃げ出し捕らえられ殺される者、降伏して生き抜こうとする者、逃げ出すことができず酒やタバコに頼り踊り狂い現実逃避をする者など、一枚岩のように見えたナチスにも十人十色の想いがあって内部崩壊していく様子が哀れだった。その中でも、ゲッベルス家の6人の子どもたちの最期は惨いものだった。その道を選択した母親自身も相当辛かったんだろうな。

ほとんどの人が法で裁かれず、自殺してしまったというのもふざけた話だ。

絶対的に信じていたものが崩壊し、正しいものじゃなかったとしたら…

ヒトラーの死後も残された人たちの心情を丁寧に描いていて良かった。

ヒトラーを演じたブルーノ・ガンツの本人じゃないかと思うくらいの熱演は本当に素晴らしかった。


ユンゲ本人のインタビューで語る最後の言葉が忘れられない。

“若かったというのは言い訳にならない。
目を見開いていれば、気づけていた”

戦争系の史実に基づいた作品だから面白さというより、ナチス・ドイツについての勉強になる作品。
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