アニマル泉

儀式のアニマル泉のレビュー・感想・評価

儀式(1971年製作の映画)
4.5
ATG10周年記念作品でキネ旬1位の大島渚の代表作。大島は「破壊と共存」だ。本作では家制度が崩壊して様々な仕切りが曖昧になって共存していく。「生と死」河原崎健三は満州に生き埋めにしてきた幼い弟の声を聞こうと地面に耳を当てるのが癖で、やがて弟と同化して棺桶に入ってしまう。生と死の共存だ。本作の女性は眉毛を剃っていて死の匂いが漂っている。そして次々と死んで河原崎だけが取り残されてしまうのだ。「葬式」と「結婚式」の共存。そもそも「儀式」とは建前と本音が裏表に織りなしている。儀式は建前の距離や序列があり、その裏で性の欲望、すなわち交わりと密着がある。「距離と接触」の共存である。「儀式の時に日本人の心の特性があらわになる」それを描きたかったと大島は言う。
低予算で撮るしかない大島が久々に大映京都撮影所でセット撮影した。日本家屋のセットは薄暗く巨大で下から顔が浮かび上がる照明が印象的だ。佐藤慶が怖い。新婦がいないシュールな結婚式と忠(土屋清)の葬式が続き、壊れた河原崎が理想の女を求めて佐藤慶を犯そうとして、そこに「日本改造法案大綱」が読み上げられるという大崩壊の場面が圧巻である。大島の「赤」は本作では小山明子から噴き出す真っ赤な血だ。そして「火」だ。河原崎が思い出を焼き捨てる火、儀式の灯明。物語は中村敦夫から自殺を思わせる電報を受けた河原崎と賀来敦子が生存を確認するために加計呂麻島まで行く道中と回想される数々の冠婚葬祭の儀式がカットバックで描かれる。
大島は「生=性=情念」である。
放歌、軍歌、春歌。「歌」も大島の主題だ。カラーシネスコ。撮影は成島東一郎。音楽は武満徹。
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