わたがし

ヒーローショーのわたがしのレビュー・感想・評価

ヒーローショー(2010年製作の映画)
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 定期的に観返すし自分の映画の参考にするほど好きな1本で、久々に通しでちゃんと観た。やっぱりとんでもなく凄い映画。鳥肌が止まらんシーンが山ほどある
 若者の軽薄な連帯感や正義感を子供向けヒーローショーと重ねて描く序盤からコンセプトが最高すぎるし、みんなあっという間に人生を台無しにしていく怖すぎる中盤、何に気付いてどう成長しても取返しのつかない終盤の流れが芸術的。意識的に自分と切り離してもねっとりまとわりつくリアリティのせいで他人事として観れないし、ずっと胸を締め付けられる
 後藤演じるキャラが恋人の連れ子への心情を吐露する場面、あまりにもハイパーリアルで(シチュエーションも相まって)そのキャラに直接触れてるような感覚になるほどの名演技。表情、声色ひとつひとつから描かれてないぶんの人生がありありと想像できる。希望であふれてるはずなのに絶望しかない。あの数分でたぶん10回ぐらい鳥肌立った
 妄想に取りつかれた夢追い人の福徳のほうと、現実主義的にやれることをしっかりやる後藤のほう(両方とも役名忘れた)で生き様の対立構造があって、その「現実との折り合いのつけ方」みたいなのもテーマのひとつになってるんだけど、その2人のやり取りの中で両者にそんな大差はないんじゃないかという示唆的な瞬間がたくさんあって(警察をホラで撃退する等、妄想が現実を捻じ曲げる)、これは「映画」というクソデカいフィクション(妄想)に対して人間がどう折り合いをつけるのかという話でもあると思う。そう考えると福徳が最後に観る景色も「映画」の決着として美しすぎる
 あと小ネタ的に出てくる脇役が全員、徹底して現代社会の闇を感じさせる脚本の細部が天才的と思う。他人に自分の子供に優しくされても礼を言わない親とか、パチンコ屋にいるシャブ中とか、一瞬しか出てこないのに凄い作り込み。こういうの全部脚本に書いてあるのかな。あとやっぱりエンドロールのS.O.Sの余韻はあまりに伝説すぎる
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