ろ

ショート・カッツのろのレビュー・感想・評価

ショート・カッツ(1993年製作の映画)
5.0


ぷかぷかと死体が浮かぶ、その隣で鱒を釣り上げハイチーズ。
子どもが意識不明で亡くなった、とは露知らず腹いせにいたずら電話。
職権乱用の警官は犬を捨て不倫し、男は家具を裂き見知らぬ女を殺す。


どこのだれが自殺をしても、世界は動きを止めない。
マグニチュード7.4の大型地震が人々を揺さぶったところで、酒を呑みケラケラ笑うことを止めない。
「この地震の影響で、女性一人が亡くなった模様・・・」
「たった一人ぐらいどうしたって言うのよ」
唯一の家族だった娘の遺体を前に初めて、世界が止まったような、そんな気がするだけだ。


釣り人は若い女性の裸死体を撮った。
女は死人のメイクを施した姿を撮られた。
同じ店で現像した写真を間違えて受け取った二人は、怪訝そうに相手を見る。
どちらも女が“殺されて”いるのだ。
犯罪の匂いを嗅ぎ取った両者は、互いの車のナンバーを必死に暗記する。
しかしそれも、ピクニックや地震や男たちの浮気や子どものことで、すぐに記憶から流れていっただろう。

そして私たちも、たった3時間前に観たはずの 殺虫剤を散布するヘリコプターの映像を、すでに忘れかけている・・・







( ..)φ

人間は”慣れる”生き物だけれど、そこには弱点がある。
結婚して子どもが生まれることも、その生活も、当たり前じゃないのに当たり前になってしまう。
そもそも生きていることだって全然当たり前じゃないのに、みんな当然みたいな顔して生きている。

地震や豪雨に見舞われたとき、亡くなった方々のことを、復興までの道のりを、絶対に忘れないでおこうと心に決める。
けれど、土砂を洗い流し瓦を新調し、避難所や仮設住宅が空になれば、一体どれだけの人があの時を思い出すだろう。

人間が生まれ持った能力、慣れること・忘れることの愚かさを、皮肉だよねって突っ撥ねて笑っている映画、「ショート・カッツ」。







p.s.

マイページを見たときに、一つ前の「蜘蛛巣城」と今回の「ショート・カッツ」のパッケージが一体感ありすぎて、ちょっと吹き出しました。
どちらも赤色に目がいく素敵なデザイン。
ろ