むさじー

眠る男のむさじーのレビュー・感想・評価

眠る男(1996年製作の映画)
3.8
<悠久の自然と人の世の儚さ>

山で転落事故に遭って以来、意識不明のまま眠り続ける男、拓次と、そんな彼を見守る家族や友人、地元の人々。拓次の友人である電気修理屋の上村、町のスナックで働く「南から来た人」ティアを中心に、知的障害のある青年、水車小屋の老人らの日々の暮らしが淡々と描かれ、周囲は温泉と渓流、山と森という大自然に囲まれている。
特に、共同温泉の湯煙の中で乳飲み子を入浴させる若い母親、ゆっくり回る水車小屋で語り合う老人と子どもなど、大自然の力を借りて営々と暮らす人々の姿が印象的だ。そんな悠久の自然の輪廻の中で、限りある時間を与えられて生きる人間。人は現世の悲喜こもごもを味わいながら生を営み、そこに意味があろうとなかろうと、時は過ぎていく。
そして「眠る男」は、死んではいないが現世の生らしきものを味わうことなく夢時間を過ごしている。いわば生と死、現世と来世の狭間にいる存在ではなかろうか。
人はどこから来てどこへ行くのか。穏やかな時の流れと生命の不思議、言葉にし切れない霊の世界を織り込みながら、風土と共に生きる人の在りようを神話風に描いている。脈絡のない断片的なエピソードが続くが、その意味あいは深く考えずに、映像の流れに身を任せた方がいいのかも知れない。
本作は「群馬県人口200万人突破記念映画」として県の出資で制作されているが、一見シュールで難解な作風が地域振興に資するものなのか疑問だった。しかし、この地には多くの温泉があり、人々の素朴な暮らしがあり、山と川と森の自然に恵まれているのだから、ありのままの美しい映像だけで既にPVにはなっている気がした。監督はその大自然と対比するかのように“人の生の儚さ”を描きたかったのかも知れない。
むさじー

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