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これがロシヤだ/カメラを持った男のTSのレビュー・感想・評価

3.7
【およそ100年前の市民の生活】78点
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監督:ジガ・ヴェルトフ
製作国:ソ連
ジャンル:ドキュメンタリー
収録時間:67分
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映画史に残っている実験的映画。一時間ナレーションなしにひたすら怒涛の如く映像を見せつけてくる異色作です。ただの映像の集まりと言われればそこまでかもしれませんが、カメラの可能性に気づいたジガ・ヴェルトフはやはり天才なのかもしれません。これは『リュミエール!』の時にも言及しましたが、やはり我々の普通の生活を撮り残すという姿勢が非常に良いと思いました。彼らのこの発想のおかげで、およそ100年前の人達の生の生活ぶりをこの目で確認できるのですから。

映像の歴史が始まってから、なんとかして珍しいものを撮ろうと撮影者は努力を積み重ねていき、ついに映像に演出を盛り込むことで、「特別な映像」をコントロールできるようになります。しかし、この「特別な映像」を撮ることに目がいきすぎて普通の映像を撮ることに目がいかなくなってしまいます。我々とて、映画館に足を運び、人が横断歩道をわたっている映像などをわざわざみにいこうとは到底思わないはず。しかし、当時の人からすると、それらの普通の生活の映像ですら斬新だったのです。今作にストーリー性はほぼ皆無。ただただ旧ソ連の市民の生活が一コマ数秒ほどで流れていきます。最初は呆然としましたが、不思議と慣れてきて面白くなってきます。

モンタージュやスローなど、当時としては最先端の技術を駆使して今作は仕上げられています。また、常に動くものに焦点をあてているため非常に生き生きとしている。無声映画でありますが、これ一本で人類がどのような生活をしていたのかわかってしまいます。つまり、そこには監督の言語や演出を超えて全人類に作品を届けたいという強い意志があるのだと思います。
そういうこともあり、今作の存在意義は大きいのだと思います。近年における似たような作品としては『BARAKA』や『SAMSARA』などが挙げれそうです。全ての映画がこの形式を取ればつまらなくなってしまいますが、少なくともこういう形式の映画は作られ続けるべきですね。『これがロシヤだ』という傲慢な邦題にも納得させられる部分があります。
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