唯

失われた週末の唯のレビュー・感想・評価

失われた週末(1945年製作の映画)
3.8
ドンが依存症に陥る一番の要因は、自己肯定感・自己受容感の低さにあることは言うまでもない。
作家になる夢に向けてもがくものの結果は得られず、現実逃避として酒を煽る。
そうしては酒に逃げた自分を責めて人生に絶望し、更に酒量は増えて行くというエンドレスの悪循環。
「なりたいものになれないからさ」と自覚している通り、何者かになれないと、成功していないと、という条件付きでしか自分を認められないことで、自分の首を自ら絞めて行く。

一緒に闘うと言ってドンのことも背負い込む恋人のヘレンが健気で良い子過ぎる。
50%の相手の面倒を見ることで自己を満たす200%なのかもしれないが。
兄や彼女が真っ当であればある程、彼は理想と現実のギャップに苦しむわけだが。

この時代、アルコール依存症ではなくアルコール中毒という概念だし、治療法も恐らく確立されていない。
身体がアルコールがないと駄目な状態になっているのに、意志薄弱のせいだとされ、好奇の目に晒される。
遂には生活に支障を来たし、盗みや借金を重ねては益々孤独を深めて行く。

どれだけ裏切られ騙されてもドンを諦めずにいてくれるヘレンの愛に涙。
信じてくれる人がたった一人でもいれば、人はきっと立ち直れる。やり直せる。
自分の存在を丸ごと受け止めてくれる相手がいるのは、ドン自身が持つ力のお蔭だし、どうにか自信を付けて前向きに歩いて行けます様に。
こうやって人を信じられるヘレンの強さにもぐっと来るね。

ロマコメの印象が強いビリーワイルダーだが、社会派作品もいけるのねと。人を描くのがやはり巧いなあ。
唯