もるがな

ニュー・シネマ・パラダイスのもるがなのレビュー・感想・評価

4.0
映画大好きの悪戯っ子の少年トトと映写技師アルフレードの年の離れた交流を描いた作品。物語は故郷を離れて成功し、年をとったトトがアルフレードの訃報を受け取り、ベッドに横たわりながら思い出を回想するシーンから物語は幕を開ける。

古い作品だが筋立ては非常に分かりやすい。映画館で寝るおっさんや広場の男とか、軽い狂人が許されてるのが時代性を感じるが、やはり一番は映画の存在だろう。まさに娯楽の王様で、映画が特別な体験であることがひしひしと伝わってくる。

この映画、特に地元を離れて働いている人間には非常に刺さる部分が多いだろう……。故郷は遠きにありて思ふものとは言うが、実際やるとなると、きっかけでもない限りは中々出ていけるものではない。

中盤、アルフレードがトトに拒絶に近いやり方で故郷を離れるようハッパをかけるが、故郷を出る決心がつかない理由はまさに人との繋がりにあり、それに気づいていたアルフレードはまさに慧眼である。この町がいずれ寂れ、廃れていくことを肌で実感していたのだ。RPGのイベントが全て終わった後の町を眺めるような心境は、田舎に住む人間なら嫌というほどよく分かる。

一度でも故郷を離れて夢を追うことを考えたことのある人間なら分かるが、地元の温かな繋がりこそが出ていく上で一番の未練や足枷になり、また出ていった際に気持ちを温める思い出として機能するのだ。それは離れてみないと分からない。野望を抱かずにこのままここで、身の丈に合った生活をするので十分なのではないだろうか? そんな思いに絡め取られたが最後、芽吹くはずの才能は年月とともに萎み、そのまま至って普通のありきたりな生活へと溶け込んでしまう。また恐ろしいことに、男の積み上げたものを愛した女は一瞬で破壊する。恋に狂ったら最後、積み上げてきた全ての価値がそれと同等になってしまうのだ。

大人になった今、それもまた一つの生活であり、安定も大切だとは思うのだが、そこに「選択肢」はない。結局は選択肢の数の問題であり、選択肢があることに気づくためには、時には拒絶する勇気も必要なのである。帰ってくるなと言って主人公の逃げ場を無くし、噂話で活躍を聞きたい、と主人公に言ったアルフレードこそ真の友人と言えるだろう。トトとアルフレードは対等な友人であり、師弟であり、親子だった。

そして映画史上に残るといっても過言ではないラスト、主人公が忘れた頃に、遠き日の思い出の断片がきっちりと繋がるクライマックスは感涙必至だろう。伏線の見事さもさることながら、シーンとしても非常に美しい。ノスタルジーでありながら、愛に溢れた映画だった。モリコーネの音楽もまた素晴らしく、テーマ曲が流れるたびに想い出が一気に色を取り戻していく。
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