レオピン

佳人のレオピンのレビュー・感想・評価

佳人(1958年製作の映画)
4.1
藤井重夫の原作小説

葉山良二のしげるは幼い頃から、お姫さまを見るような目でつぶらちゃんを見ていた。足が悪くて歩けない身体のつぶらのことを。

またも回想からはじまる (回想が好きね この監督は)
かわいらしい二人の仲睦まじい幼少時代が続くが、突然くさびを打たれる格好になったのが、渡辺美佐子の豆腐屋の時江さん。性によって引き裂かれた。思春期で終わった。

ああ 善良な人が敗れていく時代だ。
あの母とつぶら あのおばちゃんも本当に優しい人で優しすぎて、主人には頭が上がらず怒られどおし。明治生まれなんてあんな夫婦がふつう。父亡きあと株の借金のために家屋敷を売払って、息子の級友の男の言いなりになるしかなかった。今だってよくある話。大黒柱を失った一家がどうなるのか。

小説にはもしかしたら戦前と戦後の切断ということが重くあるのかもしれない。だが、この辺は、昔の方が人の心もなにもかもうつくしいとは思えない。

中盤過ぎから強烈な姿を現してくるのが金子信雄演ずる衣巻という男。兄の同級生だった旅館のドラ息子が戦争に近づくにつれ頭角を現し、議員だった父もその会社の世話になる。戦後は一瞬で軍国主義者から民主主義者に化け、県会議員・旅館経営者として更にのし上がっていく。

この男の異常な性癖に吐き気を覚える。玩具扱いなんてものじゃない 行為を見せて悦ぶ 下衆中のゲス。後の山守義雄の口調で「女の腐ったように〜」という台詞があったのには笑ったが。

つぶらの周りは実にイヤな男が多かった。家族だって兄は冷たく、父は母を文鎮で叩いたりしていた。ポスターには笠智衆の名があるが直前に降板したそうだ。この役柄のせいだろう。

母だけが頼みの綱だった。そんな人を失ったらどうやって生きていけばいいのか。
ハイジに出てくるクララのように、夢の中で立ち上がって歩いている姿を見るしかなかった。

しげるがつぶらの顔をクレヨンで一生懸命に描き、乳母車に乗せて仲良く遊んでいた時代は、昭和6年7年あたり。悪くなっていく時代の中で、共に一番幸せな時間を過ごした相手だった。

近所に重度の障害を持ったお兄ちゃんがいて、よく遊んでもらった。その家に行くとすごい安心感があったのを憶えている。もはや最近自分も思い出すことが多くなった。いかんと思いつつも、昔の方がうつくしいと思うのも人の心性なのだろうか。きっと誰の胸にも佳人が住んでいる。
レオピン

レオピン