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ディス・イズ・イングランドのmochiのレビュー・感想・評価

4.4
前半と後半の落差が大きくて驚いた。前半はひたすらファッションとカルチャーを楽しむ感じ。あのファッションほんと謎だな。70年代の方が個人的に好み。
後半は完全に社会的問題を扱ったヘヴィな展開。よかった。サッチャー政権も、リベラルもダメだ、という考え方とも言える。イギリスという国がいかに虚飾に満ちた国家なのか、ということをうまく表している。彼らは戦争で勝ち続けてきているから、敗戦国が辿った道のりを想像することができない。彼らにとっての戦争は勝利の歴史であり、栄光の根拠でもある。だから、イギリスが偉大であったという過度に美化された世界観を持っているのが、コンボたちのグループ。彼らは中東からの移民に仕事を奪われ、イギリスがもはやイギリス人のものではないことに危機感を持っている。だが、ここであえて問おう。中東の人々がイギリスにこなければならなくなったのは、いったい誰のせいなのか?戦争や歴史に対する当事者意識は加害者より被害者の方が強い。イギリス人は自分たちの先祖が戦争で多くの他国の人を殺したことについて、罪の意識を持つことはないだろう。それはあくまで「自分ではない誰か」がやったことだからである。一方で中東地域の人たちは、イギリス人の外交政策によって自らの土地を失ったことを、決して忘れないだろう。これは日韓関係においても言える。日本人は自分の先祖がやったことに、罪の意識を持たないが、韓国人は日本併合の傷は受け続けるだろう。罪の意識を持たないことが悪である、と言いたいのではなく、これは単なる事実の分析である。コンボたちは自分とは関係のないところで起きた出来事の尻拭いを自分たちがさせられているのだ、という意識から逃れることはできない。行き過ぎた正義感は真の暴走を引き起こす。
一方でウッディたちは魅力的でかっこいい人たちとして描かれているが、彼らはいい意味でも悪い意味でも一般人である。自分たちの栄光が虚飾だと気づいていても、それを変えようとせず、ささやかに生きていこうとする。ある意味コンボたちの方が純粋で情熱的で、改革意識を持っている。
そしてこれらの社会的テーマがショーンの個人的な成長と絡み合っているのが素晴らしい。単なる社会的映画ではない。
こういう映画をイギリス人が撮れる、という点が素晴らしい。自己批判能力があると思う。
殴り飛ばした後に、実録の映像を入れるあたりも非常に効果的で、素晴らしかった。
"This is England"は、コンボたちの合言葉であり、イギリスのアイデンティティを取り戻すための標語だが、むしろ「イギリスはこんな国さ」という自虐を表してるように思える
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