Ren

ナイト・オン・ザ・プラネットのRenのレビュー・感想・評価

4.0
面白かった!ファンが多い理由もめちゃくちゃ分かる。タクシーという密室をこの上なく上手に使った群像劇。会話劇映画のマスターピースで確定で良いでしょう。

自室で深夜に観て正解。タクシーは飲んで終電で帰ったとき最寄り駅から自宅まで行く時くらいしか使わない(だから昼に乗ることはほぼ無い)のだけど、どのエピソードもど真ん中でその空気感を纏っていたので最高だった。LAで夜が更け、ヘルシンキで夜が明けていく。カメラが収めたもの全部好き。ミニシアターで観ても良かったな。

キャラクターの個性の出し方も◎。キャップ被ってタバコを吸いガムを噛む女性ドライバーも常軌を逸したポンコツドライバーも全てを見通す盲目の女性も非常識おしゃべりクソ野郎も書き割り的ではあるけど、短編だから輝く瞬発力に長けていて文句なし!

5話全て、ドライバーと乗客が噛み合ったり噛み合わなかったりする話運び。スカウトする/されるとか、異言語同士とか、目が見える/見えないとか、神父と赦しを請う男とか、運転席と後部座席の分断がそのまま彼らの明確な立場の違いになっていた。
ヘルシンキは少しだけ違って、似たように不幸を背負った人間たちが共鳴していく様子を楽しむ作品。助手席にも乗客が乗っているように、前後の隔たりがあまり無い。ニューヨークのエピソードとはまた違った意味が助手席に込められている辺り、空間設計も上手。
誰が振り回すのか振り回されるのか、ドライバーがヤバいのか乗客がヤバいのか、各話にテーマがあって飽きなかった。
個人的ベストはニューヨーク。倫理観が完全に吹き飛んだローマは最も好みが分かれるかも。BGMは特徴的で良い。

前回のレビューでも書いたような、監督の「映画的なものを撮ろう・派手なものを見せようとするのではなく、人間のすれ違いとか可笑しさが浮かび上がる日常を切り取りたい」という精神性はより強固なものとして存在していた。またいつか観返したい。

邦題が「ナイト・オン・アース」でない理由は推測するしかないが、惑星名を限定しないことでより地に足の着いていない「おはなし」っぽさがあって好き。絶妙な匿名性がジャケットのおしゃれさと相まって鑑賞前の心を掴む。結局地名の固有名詞出ちゃってるからあまり意味無いのだけど。
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