カツマ

みなさん、さようならのカツマのレビュー・感想・評価

みなさん、さようなら(2003年製作の映画)
4.0
この作品の公開当時は『アメリ』『グッバイレーニン』といった単館系ヒット作が次々と生まれ、俄かにミニシアターブームが活気付いていた頃。2003年のアカデミー賞で日本の誇る自信作『たそがれ清兵衛』を打ち破り外国語映画賞に輝いたのがこの作品だ。
重い命題をコメディタッチの脚本に上手く溶け込ませ、絶対的な死への旅路への第一歩を踏ませていく終活のお話。父親を幸せに包まれて逝かせたい、そんな息子の想いが結実した親と子の不器用なサヨナラに涙がこぼれた。

ロンドンの証券ファンドでビジネスマンとして成功をおさめたセバスチャンのもとに、ある日父親が入院した旨を伝える一報が届く。父親のレミとは何かと衝突してばかりだが、婚約者の後押しもあり、セバスチャンは遠くロンドンから故郷のモントリオールへと飛んだ。セバスチャンとレミは会うなり衝突するが、検査の結果レミはもう長くないことを知る。喧嘩しながらも父に幸せな最後を遂げさせたいと願う彼は、レミの旧友を病室に集めたり、痛みを和らげるヘロインを投与させたりとあらゆる手を尽くす。徐々に弱っていくレミの姿。確実に彼の命は燃え尽きようとしていた。

当時このラストシーンは静かな衝撃を与えたものだ。日本の映画ではまずあり得ないラストだからだ。このラストが恐らくアカデミー賞を賑わせた要因の一つだったのではないかと思う。
物語が進むにつれてレミの周りの家族や友達の人生にまで少しずつ変化が生まれ、幸せとは、人生とは何か、というもっと大きなものへとその命題は膨張していった。
湖の淵で佇む老人の姿には人生を全うした男の背中があった。悲しさだけではない真摯なメッセージをしっかりと伝えた名作だったのだと思います。
カツマ

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