レインウォッチャー

ファインディング・ニモのレインウォッチャーのレビュー・感想・評価

ファインディング・ニモ(2003年製作の映画)
3.5
親離れ/子離れを題材にした映画は数あれど、その両面を100分サイズの超絶シンプルアドベンチャーの中で描き切ってしまった今作の恐ろしさ。言うべきことはすべてぎゅぎゅっと表現されていて、親子(育児)映画の歴史は2003年に一度終わっています。

PIXARといえば、の『トイ・ストーリー』もまた親子(育児)映画的な側面をもつけれど(特に1~3まで)、今作はよりダイレクトで、凝縮されている。
Findingとはニモ「を」探す物語でありつつニモ「が」探す物語、よく優れたファミリー向け映画に対して「親子どちらも楽しめる」なんて表現がされるけれど、今作ほどそれを愚直に体現した作品も稀なのではないだろうか。

一応の大人と呼ばれるべき身分になった(納税とかしてるし)今観返すと、やはり父魚のマーリンに視線を重ねてしまう。そのビューから気づくのは、今作がFindingマーリンでもある、という事実だ。

マーリンは(過去の悲劇の経験も手伝って)どちらかといえば心配性で堅物。ジョークを喋るのが苦手で、" カクレクマノミのくせに "とか言われてしまう。(※1)
そんな彼が、ニモを探す中で大冒険を経験して、その逸話が海中の生き物に広がっていく。ここに、わたしはいたく涙腺を揺さぶられてしまうのだ。

マーリンのような境遇でなくとも、親になるのは不安との戦いだ。もしかすると、腹を痛めるわけではない男性は特に、「準備」ができていないような心持ちまま親になることも多いのではなかろうか。(本当はできているママさんパパさんなんてほんの一部なのだけれど。)
俺なんかが良い父親になれるのか?隣のあの子のパパみたいに、格好いい特技なんてないぞ。何を教えてやれるっていうんだ…

そんな誰もが抱えがちな隙間に、この映画はすっと水面から光を当ててくれる気がする。不格好で、特別な技能やユーモアのセンスなんてなくても、子供のためにただ足掻きまくった時間が何より鉄板の伝説になるのだ、ということ。

" ウミガメは150歳生きるんだ "。

わたしたちの世界もまた彼らの海と同じように、輝く珊瑚礁もあれば、ただ広く深く広がる闇もある。それを前にしたとき、親はいつでも子供に少しでも多くの何かを教えたがる。太古から続く継承の力学、ウザくてもスベってても、それが親なのだ。
かつてのニモたちよ、ずっと後のいつかで良いから、マーリンのことを思い出してやってくれ。

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※1:カクレクマノミ=clown(ピエロ) anemonefish。