シズヲ

股旅のシズヲのレビュー・感想・評価

股旅(1973年製作の映画)
4.5
渡世人時代劇。でも木枯し紋次郎もいなけりゃ座頭市もいない。此処にいるのはひたすら無様で情けなくて、そして呆れるほど青臭いチンピラ達なのだ。仁義の口上を律儀に捲し立てる冒頭を皮切りに、泥臭くも滑稽な渡世人の生活と若者達の顛末が冷淡に描かれる。『さすらいのカウボーイ』が映画のベースになっていることも相俟って最早アメリカン・ニューシネマに近い(どちらかと言えば『男の出発』や『夕陽の群盗』あたりの青春西部劇っぽいけど)。

主役三人に格好良さなんてものは無くて、百姓や町人から崩れてきた身でただひたすら必死に足掻くだけ。とにかく冴えない、垢抜けない。そんな彼らの何とも言えぬ間の抜けた掛け合い、黙々と渡世人の解説をするナレーションの冷ややかさが本作に悲喜劇めいた趣を与える。主役三人がぽつんと歩き続ける引きのカットは長閑な風景も相俟って美しく、同時に何処か荒涼とした物寂しさを感じさせる。

帯刀しているだけのヤクザであることを強調された渡世人達の殺陣の場面も強烈すぎる。美しい太刀筋や型に嵌まった剣術は当然の如く存在しない。相手を殺そうと自棄糞に刀を振り回し、斬られた者が苦痛に悶えるその様相はもう「無様な斬り合い」と言う他無い。作劇的な見映えが殆ど排除された本作における渡世人の生き様は異様な生々しさを伴っている。

萩原健一、尾藤イサオ、小倉一郎ら渡世人トリオは貧しい身分から飛び出してきた若者に過ぎない。自由を求めるかのように無軌道に走る彼らは結局どこへも辿り着かないし、何者にもなれないまま惨めに彷徨い続ける。序盤のシニカルなユーモアが次第にどうしようもない閉塞感を帯びていき、ドライな切り口を貫いたまま結末まで転落していく哀れさ。そして心底ちっぽけな経緯によって各々の未来が唐突に閉ざされる虚しさ。「おーーーい」で終わるラストの痛切な余韻にただただ打ちのめされるばかり。
シズヲ

シズヲ