※今回、オッパイも何も出てこない、「まとめ系YouTuber」のどーでもいいネタと同じレベルのつまらない話なので、読み飛ばしてもらって良いです。映画の感想ですらありません。
ここんところゲーム(PSの半額セールで買った「13機兵防衛圏」)ばっかりやってて全く映画観ておらず、filmarkもご無沙汰してたのだが、日本で全く報じられてないのに、昨日からハリウッドを席巻している話題があって、書いてみることにした。
それが
「CAAがICMを買収する」
という9月28日付けのニュース。
CIAとかICBMみたいな略称で
「えっ、戦争の話?」
と誤解されるかもしれないが、この二社ともハリウッドの「4大エージェンシー」と言われる超大手エージェント会社。
CAAが業界2位で、ICMが業界4位。
言い換えれば、アサヒがサッポロビールを買収する、みたいな話。
これがいきなり発表されたので業界中が驚愕←いまココ。
■エージェント会社とは
日本で言う芸能事務所みたいなものなのだが、ハリウッドというかアメリカの場合、日本みたく俳優が会社に完全に専属するのではなく、俳優が「映画やTV出演に関わる全ての交渉」をエージェント会社に任せる、というのが一般的。
エージェント会社は映画出演契約の10%程度を、コミッションとしてアーティストの出演料から受け取る。
なぜこの話を「ジュラシックパーク」のレビューに書いてるかは、あとで説明するので脇においておくとして、エージェント会社は、簡単に言うと、俳優の、映画出演に関する全てを仕切っていると言っていい。
俳優に限らず、映画監督や脚本家、作家も同じく、エージェント会社を使っている。脚本料や監督料の10%を支払う代わりに、映画スタジオ探しなどをやってくれる、という構造だ。
CAAでは、ブラッド・ピット、トム・クルーズ、ダニエル・クレイグ、ロバート・デ・ニーロ、クリス・ヘムズワース、ニコール・キッドマン、マーゴット・ロビーといった超有名俳優やスピルバーグ、スコセッシといった超大物監督がクライアント。
ICMでは、サミュエル・L・ジャクソン、ジョン・トラボルタ、こないだ観たばかりの「ソウの新しいヤツ」に主演してたクリス・ロックなどがクライアント。
俺たちが知っている俳優たちは、こういったエージェント会社と契約しているのだ。
■CAAの設立
CAA(クリエイティブ・アーティスツ・エージェンシー)が出来たのは、1975年。
当時の最大手エージェント会社だったWMA(ウイリアム・モリス・エージェンシー)を飛び出した若者5人が数千万円を借金して設立。
この5人で一番若かったのが、マイケル・オーヴィッツ。当時29歳。
他の4人を押しのけて社長に就任し、後述する様々な革命でもってCAAを凄まじい成長ぶりで業界トップの地位にまで引き上げたのに、1995年に
「ディズニーの次期社長になれるもんねー」
と、自分の会社を放っぽらかしてディズニーの副社長に就任。
なのに勝手すぎる振る舞いをして、たった一年で追い出される、っていうメチャクチャな人なのだが、興味ある方は、彼自身の自伝「LEGEND(レジェンド)ハリウッド最強のエージェント(日経BP)」に詳細が書いてあるのでオススメする。
ディズニーでのマイケル・オーヴィッツのエピソード:
オーヴィッツ「マーティン・スコセッシの新作、ディズニーで契約したわ(ドヤッ)」
社長「えっ、どんな内容なん?」
オーヴィッツ「ダライ・ラマ」
社長「えっ?」
オーヴィッツ「ダライ・ラマの伝記映画!」
社長「……」
オーヴィッツ「これはいい映画になるで!」
社長「……キミ、中国とダライ・ラマの関係、分かってる……!?」
オーヴィッツ「ふわっ!?」
社長「さらに俺ら、今度中国で、大作アニメ上映する予定なんやけど……」
オーヴィッツ「くぁwせdrftgyふじこlp //!!」
結果、中国からの圧力を受けまくったディズニーは、制作はしたものの超小規模でこの映画「クンドゥン」を公開。興行的にも惨敗すると共に、当時中国で大々的に公開するハズだったアニメ「ムーラン」の公開を8ヶ月も延期させられている。
■CAAの革命
俺の主観だが、CAAの行った革命は3つ。
1.エージェント会社を「ほうれんそう」の組織に
それまでのエージェント会社、例えばWMAは、個人エージェントの集まりで、それぞれ各エージェントのプライドが高く、横同士で繋がりが薄かった。対してCAAでは、各クライアントの情報や映画スタジオの情報を全員で共有。チームで動くことによって情報の活性化を図っている。
マイケル・オーヴィッツはこの組織作りに関して、「日本企業のやり方を参考にした」とコメント。
以下、ちょっとだけ余談。
日本好きで、その後、松下のMCA(ユニバーサル)スタジオ買収(※)を主導したマイケル・オーヴィッツは、趣味で空手を習っていた。
その時の師範が、めっちゃキレッキレの動きをするスーパーアスリートだったことに注目。
「師範、ちょっと映画出てみない?」
と誘って、ハリウッドのスタジオ幹部の前に連れていき、いきなり目の前で空手のアクションを披露させ、見事、映画主演の座をゲット。
その師範の名前は、スティーヴン・セガールという。
※上記「LEGEND」ではソニーのコロンビア買収も主導したように書かれてます、他の本とか読んでも、こっちはそんなに詳細が書かれてないので、ソニーの件に関しては「主導」ではないと思います。
2.「パッケージ」と呼ばれる方式のハリウッドへの定着
これは後述。
3.クライアントの多角化
それまでハリウッドがビジネスの中心だったエージェント業界構造の中で、いち早くケーブルTVの時代が来ることを見抜き、テレビタレント部門を強化。
有名なところでは、「レイト・ナイト・ウィズ・デイヴィッド・レターマン」のNBCからCBSへの移籍などを仕掛けている。日本で言うと「ミヤネ屋」がフジテレビに移籍する、と想像してもらえばいいかも。
その後、タレントだけでなく企業PR全般や、前述した企業買収のコーディネートなどにも進出。
企業PRではコカ・コーラの世界PRを広告代理店と競り勝って、1993年の「ホッキョクグマがコーラを飲む」という当時印象的なCMなどをプロデュース。この仕事でも、クリエイティブにCAA所属の映画監督を使うなど、リソースを最大限に活用しており、「ほうれんそう」の思想が生きている。
また、当時は大きなビジネスと見られていなかったライブ・コンサートツアーにも目をつけ、敏腕エージェントのトム・ロスをヘッドハント。トム・ロスは内部抗争で1998年にCAAを去っているが、現在でもCAAには、レディガガ、スティーヴィー・ワンダー、AC/DCといった超大物アーティストがクライアントとして契約。
その後、これは現在の経営者であるブライアン・ロード(※1)やデヴィッド・オコナーの功績だが、スポーツ業界にも進出。デヴィッド・ベッカムからレブロン・ジェームズ率いるNBAマイアミ・ヒートのBIG3(※2)、さらにはオリンピックの参謀まで、スポーツ界でも大きな存在として君臨している。
※1 ブライアン・ロードの元奥さんは「スターウォーズ」のレイア姫こと故キャリー・フィッシャー
※2 レブロン・ジェームズは2012年にCAAのエージェントだったリッチ・ポールの独立と共に移籍
■ハリウッドの「パッケージ」ビジネス
元々ハリウッドは映画スタジオが強く、スタジオが映画監督や俳優を決めるのが普通だった。
それを覆したのが、多くの監督や俳優を抱えるCAA。
例えば1986年に公開された、「ハスラー2」。1961年に公開された「ハスラー」の続編。監督のマーティン・スコセッシとポール・ニューマンの主演を前提に、CAAが映画スタジオに「パッケージ」として映画の企画を売り込み、大ヒット。世界中にビリヤードブームを巻き起こし、ほぼ同時公開された「トップガン」で主演し、この作品では若きビリヤード・プレイヤーを演じたトム・クルーズをスターダムに押し上げた。
もちろんトム・クルーズはCAAのクライアント。
その翌年に公開された「レインマン」もCAAのパッケージ。
そして、ようやくここで話は、「ジュラシック・パーク」につながる。
■ジュラシック・パーク
俺の主観だが、このCAAの「パッケージ」最大のヒットが、映画「ジュラシック・パーク」。
当時、映画業界からTV、出版業界にまで手を伸ばしていたCAAは、作家マイケル・クライトンとエージェント契約を締結。マイケル・クライトンの新作「ジュラシック・パーク」にスピルバーグをパッケージして、映画スタジオに売り込んだのだ。
結果は……もう、おわかりですよね?
「パッケージ」ビジネスの場合、俳優や監督のギャラからのコミッションに加えて、興行収入の利益から15%程度といった収入がCAAにもたらされる。
これはCAAに莫大な利益をもたらすと共に、映画製作の主導権を映画スタジオから奪い取ることに成功した。
キバヤシ「そう、ハリウッドは、CAAに支配されているのだ!」
ΩΩ Ω「えーっ! な、なんだってー!?」
こんな声が聞こえてきそうなほど、CAAは一時期のハリウッドを牛耳っていたのだ。
■そして現在
現在でも引き続き、CAAは超大手エージェントとして様々なエンタメ業界に影響力を発揮している。
たとえば公開中の「ミナマタ」。上に書いたように主演のジョニー・デップはCAAのクライアントだし、共演のビル・ナイもCAAのクライアントだ。ってことは、この作品も、おそらくCAAのパッケージの一環。
だが、ハリウッドでは、当時の7大メジャーからスタジオ数が半減。
特にディズニーは、ディズニーブランドの活用や、MCUという世界観での「有名俳優いらない」戦略、ディズニープラスでの囲い込みなど、完全に主導権を奪い返していると見られる。
なので、今回のCAAのICMの買収は、「大手企業のみが生き残る」という、現在、世界中で起こっている買収・合併合戦が、ついにエージェントの業界でも起こるんだ、という意味で興味深い。ちなみに前回の大型買収は、WMAをエンデバーという別のエージェンシーが巻き取った2010年のディール。
買収自体は、今後、公正取引委員会の査定を経て、年内には買収完了し、その後、上場を目指すと報道されている。
……とこんなビッグニュースなのに、日本の評論家や映画ニュースは全く記事にしてない。
TWITTERでも「大手サッカーエージェンシー、ステラーを抱えるICMが買収される!」ってスポーツ絡みの記事しか見当たらず。いや、映画メディアの皆さん、ちょっとは仕事しようよ……。
仕方ないので俺が通常は下半身に溜まっている血流を、鮭のように脳みそへと逆流させ、こんな長い与太話を頑張って書いてみました。
最後に俺がビックリしたCAAのクライアント。
2017年、ジョー・バイデンがCAAのクライアントになっている、という記事をさっき発見。
ΩΩ Ω「な、なんだってー!?」 (以下略)
(おしまい)