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あなたは遠いところにのmaverickのレビュー・感想・評価

あなたは遠いところに(2008年製作の映画)
3.8
2008年の韓国映画。主演は『夏物語』のスエ。彼女は本作で第46回大鐘賞の女優主演賞を受賞した。ベトナム戦争を韓国の視点から描いた作品。


スエが演じる主人公が戦地で夫を探す話。ラブストーリーかと思っていたが、その要素はほとんどない。民間人は戦地に行けないため、主人公は慰問バンドに入団してベトナム入りをする。物語の大半は、彼女ら慰問団の一行が戦地で興行をする描写で構成されている。重たい話かと思いきや、意外とポップなノリなのも面食らった。歌手としてはずぶの素人だった主人公が、興行を重ねるごとにどんどん垢抜けてゆく。メイクと派手な衣装とがセクシーな、スエの魅力が印象的な作品だ。

この時代の韓国女性の立場の弱さを感じさせる。愛のない結婚をした主人公は姑にも辛く当たられ、実家を頼ることも出来ない。それなのに彼女は甲斐甲斐しく夫を追って戦地へ赴くのである。慰問活動のバンドに入団した彼女は、最初はたどたどしいがやがて垢抜ける。慰問コンサートでは、兵士たちが自分を見て熱狂的に支持してくれる。誰にも相手にされず居場所のなかった彼女だが、そこに自分の存在意義を見つけるのだ。大勢の兵士を鼓舞する彼女の姿は実に生き生きとしていた。

最初は田舎の冴えない娘だったのに、そこから戦場のマドンナへと変身を遂げる。主人公のそうした吹っ切れ具合をスエが見事に演じていた。夫への献身的な愛も主人公はずっと持っており、それが他の何より大事。健気さと強さが両立する女性であり、そこの表現力も見事である。

ポップな描写が目立つが、戦争が題材の作品なので後半はやはり重たい。興行が成功して浮かれる一行だが、ここが戦場である現実を思い知らされて目が覚める。こうした温度差で戦争の悲惨さが演出されていた点は良かった。

着想は良いと思うのだが、脚本や演出に粗が目立つ。戦場の空気感も弱い。期待した割には・・と、自分的には刺さらなかった。でも想像とは違う部分で本作のポップな作風は収穫だった。慰問がなぜ歓迎されるのかよく理解出来る。「ダニーボーイ」「スージーQ」の名曲も耳に残る。そして何より主演のスエの魅力、これに尽きる。優れた作品とは言えないが、意欲的な面でも評価に値する作品である。


ホットパンツで歌うスエが衝撃的であった。ラストの演出も重みがあって良い。最後はぐっときた。
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