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フレンジーのKSatのレビュー・感想・評価

フレンジー(1972年製作の映画)
4.4
ヒッチコックが力をなくしていた晩年に英国で撮った映画だが、めちゃくちゃ面白い!まさに集大成だ。最後の最後数秒まで全く目が離せない二転三転の展開には、拍手喝采する他ないだろう。

冒頭、テムズ川で川の水質改善を謳う市長の横で女性の全裸死体が流れて来たり、いくら料理教室に通っても不味さの一途を辿る英国人の深刻な食事情だったり、主人公の酷いファッションとそれを完璧に覚えている秘書だったり、養蜂という共通の「趣味」を通して結婚案内所で結ばれた熟年カップルのバカバカしい会話だったり、英国ジョークばっかり。ジャガイモを積んだトラックの場面もギャグだし、もはやモンティ・パイソンの域だ。ハリウッドではここまでセンスを発揮できていなかったのではないか?

「自分は濡れ場やヌードは撮らない」なんていってた癖に、時代も変わったせいか、女性のあからさまなヌードが何回も見られるし、殺害の様子や死に様がかなりおぞましい。

秘書の女性が絶叫するまでの長い無人カット、部屋に入ってからの階段を降りて街の喧騒に出るまでの長回しなども鳥肌が立つほど凄いが、特に後半の救急車やらカップやら病室やら幕引きのカバンといったモノの撮り方や空間の捉え方、あるいは「罠にはめられた主人公が脱走して凶行に及ぶ」展開なんかは、どういうわけか「ラルジャン」のよう。ブレッソンはヒッチコックの影響を受けたのだろうか?

さて、この映画も「主人公が犯罪者と間違われてしまう」というヒッチコックお馴染みの型を持つ一本だが、主人公のブラニーはかなり可哀想。

住み込みで働いていたパブをだらしない性格がたたってクビにされてしまい、競馬の当たりを逃し、挙句の果てには元妻やいい感じだった同僚が殺されて濡れ衣を着せられてしまう。

それに対して真犯人である友人のラスクは周囲に友人も多く、明らかに社会的に成功しているが、倒錯したサディズムがかなわず、それを拗らせて凶行を繰り返す。

一方、ブラニーを疑ってかかっていたオックスフォード警部は、やがてラスクが真犯人だと理解するが、そのきっかけは奥さんのアドバイスだった。

結局のところこの映画が行き着くところは、友人や恋人、家族など、理解ある身内を持つことの大切さなんじゃないだろうか。ヒッチコックにしては温かみを感じる一本なのかもしれない。

ところで、犯人を推理するオックスフォード警部と不味い料理を出しながらも彼に鋭いアドバイスを与え、スフレを焼いてくれる奥さんは、間違いなくヒッチコック自身と奥さんのアルマのことだろう。ヒッチコックもスフレが大好きだったらしいし。「俺たち幸せだもんね〜」ってか。
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