秋日和

クリーンの秋日和のレビュー・感想・評価

クリーン(2004年製作の映画)
4.5
映画が始まって数分した時点で、やたらと窓ガラス越しにマギー・チャンを捉えたショットが多いことに気が付く。周りの人間の会話の内容や態度から察するに、どうも彼女は嫌われ者らしい。とすると、窓ガラスは彼女と周囲を隔てる役割を果たしている、ということになるのだろうか。薬をなかなか止められない駄目な母親の烙印を押されたミュージシャン(の卵)であるマギー・チャン。格好からして痛々しさ全開で、遂には刑務所の面会室の窓ガラスが、とどめを刺すかのように彼女の目の前に現れてしまう。そのとき世界は窓ガラスの<こちら側>と<向こう側>に分断される。勿論、彼女のいる側は暗く、どこまでも生き辛い。
映画の後半は、彼女が駄目な自分を変えようとする姿が見受けられる。薬を断ち切る為に彼女は目の前にある窓ガラスを開け、そして捨ててみせるし、売れる為に有名人の車を追いかけもする。苦しみ、傷つき、ときに涙を流しながらも、彼女は息子と会っても恥ずかしくない母親になること、そしてミュージシャンになることを諦めはしない。その甲斐あってマギー・チャンが最終的に辿り着いた場所にある窓ガラスは、前半とは全く違う景色を彼女に見せてくれる。アサイヤスはきっと人生を厳しくも肯定的に捉えてるんだね。素晴らしい。そして、その姿勢は映画の中盤にニック・ノルティが呟いた「人間は変わるものだと信じてる。自分が望めばな」という台詞にも表れているような気がした。拍手!
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