てる

ミリオンダラー・ベイビーのてるのレビュー・感想・評価

ミリオンダラー・ベイビー(2004年製作の映画)
3.5

これまたウォッチリストの肥やしだったのをようやく観た。この作品、2004年に劇場公開したんだね。もう20年も前の作品になってしまいました。長いこと放置してたもんだ。

老トレーナーと三十路すぎの女性ボクサーの悲しいお話。
これがアメリカンドリームの象徴たる姿として描かれているそうだ。
アメリカンドリームってつくづく資本主義だなっと感じる。実力があれば人気もお金も入ってくるが、怪我をして試合に出れなくなった途端に周りには誰もいなくなる。単純明快なシステムだけど、あまりに即物的や過ぎないだろうか。悲しすぎる。資本主義の闇を垣間見た気がする。

冒頭から中盤までは1人のボクサーのサクセスストーリーとして楽しめる。心を開かない老トレーナーと明るく愛嬌のある女性ボクサーのやり取りは観ていて楽しい。
ただ、この作品は常に影がある。この登場人物の誰かに何か不吉なことが訪れてしまうのではないかと、不安にさせる。そして、案の定の展開に心が辛くなる。
なぜ幸せになれないのだろうか。そんなことを考えてしまうが、スクラップの一言に心が揺れる。

誰もがタイトルを勝ち取れるわけではない。どんなことがあろうと、彼女のボクサー人生が最良であったのは間違いない。

確かにボクサーとしては輝かしい功績であったのは間違いない。だが、あんなことがなければ、彼女はまだボクサーとして活躍できていたし、引退後も長い人生が待っていた。
ボクサーとして生きることが全てではないと私は思う。怪我を恐れて試合を先伸ばしにする選択肢もあったし、年齢を考えれば最良のときに引退でも良かった。
この結末に悲しさしかない。

尊厳死を選んだマギーとそれを認めてマギーを手にかけたフランキー。
私には決断が早すぎたように思えてならない。ボクシングを出来ないボクサーは生きていても無駄だとマギーは思っているし、フランキーもそれを否定できなかった。
あまりに即物的すぎる。彼らは他に存在価値を見いだすことができなかった。
もしかしたら、体が動かなくても別の何かで生き甲斐を見つけることができたかもしれない。
プライドも大事だけど、それで死ぬことなんてないのに。プライドのために生き、プライドのために死ぬ。彼らは武士か何かなのかもしれない。
私にはどうしても錆び付いた古い考えだと思えてならない。

現代は多様性の時代だ。色んな人が色んな生き方を選んでいい時代なのだ。昔のように選択肢が少ない時代ではないのだ。だからこそフランキーの判断は殺人に他ならないと思えてしまう。

いつも感じるが、クリント・イーストウッドの考え方は古すぎる。老人や右翼の人には響くのかもしれないが、私にはいまいち響かない。伝えたいことはわかるのだけど、共感できない。
もう少し現代の若者にも耳を傾けてほしい。劇中に若者が出てきても、それは若者ではない。クリント・イーストウッドが仮面を被って、老人が若者のふりをしているだけなのだ。

でも、そうやって説教くさい老人がいてもいいかもしれない。いつまでも映画を撮り続けてほしいものだ。
てる

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