コーカサス

ワルキューレのコーカサスのレビュー・感想・評価

ワルキューレ(2008年製作の映画)
3.6
嘘であって、嘘でない事実。

今はどうか知らないが、昔の漫画は登場人物に外国人が出て来ると、吹き出しの台詞文字はカタカナ表記となり、日本人と外国人がごく自然に会話する場面が普通に描かれていたものだ。
しかし、これは“漫画という嘘”における謂わば暗黙のルール、お約束のようなものであり、そこで言語の違いをとやかく追及する者は居なかった。

本作もそれと同様に、冒頭ドイツ語で表記された『Walküre(ヴァルキューレ)』のタイトルは英語の『Valkyrie(ヴァルキリー)』へと変わり、またドイツ語を話していたトム・クルーズはいつしか英語を話し、物語は進んでいく。
そもそも、ドイツ人将校のシュタウフェンベルク大佐をアメリカ人であるトム・クルーズが演じること自体、“映画という嘘”なのだが、そうした嘘や違和感をひとつひとつ丁寧に処理していく創意工夫こそが作り手のセンスであり、まさに映画の成せる業と云えよう。

だが、そんな“嘘”が通じるのは漫画や映画の世界だけであり、こと歴史においては一切通じず、本作は実話をもとにした物語である。
調べによると、ヒトラー暗殺は40回以上も計画、実行され未遂に終わったというが、本作の5年前、ひとりの家具職人が企てた暗殺計画を描いた『ヒトラー暗殺、13分の誤算』と共に観るのも良い。

何故なら、映画という嘘であって、嘘ではない《歴史と事実》がそこにあるはずだから。

47 2023