Ren

レミーのおいしいレストランのRenのレビュー・感想・評価

4.0
潔癖症の方以外全員におすすめして回りたい。混ぜるな危険、レストランとネズミを混ぜてしまった、フレンチの大人な雰囲気漂う一作になっている。毛並み、水、人間、光の次は湯気。

今作の映像表現的な魅力は、何と言っても綺麗なパリの景色と実写よりも美味しそうな料理の数々!キャラクター化した可愛いネズミと写実的な風景と料理が一つの画角に溶け合っているの普通にすごくないか。

作品のメッセージにしても、ピクサー作品における一つのターニングポイントになるべき新鮮さがある。
レミーは元から料理の才能があり、リングイニはハナから才能が無い。定石なら「リングイニには実は隠れた才能があり、それをネズミとの出会いによって開花させた....」という『バグズ・ライフ』的な話に纏めるはずだけど、そうはならない。つまりは、料理人になるために努力を積むストーリーではなく、自らの抱える使命・境遇を乗り越えていくストーリーになっていたのが、素晴らしい。このスタンスは『モンスターズ・ユニバーシティ』へ受け継がれていく。

主軸となるメッセージはラストに料理評論家・イーゴの口からはっきりと語られる。どんな人でもどんな境遇でもどんな立場でも、何を目指したっていいのだと背中を押されるような映画だ。
原題にもなっている『Ratatouille』(ラタトゥイユ)=家庭料理を前にイーゴがあの頃を回想するシーンがハイライトだ。料理は崇高なものであり一部の才能が磨きをかけて生み出す芸術である....否、それ以前にもっと優しくて楽しくてウェットなものだという帰着。評論と娯楽の話と思って観てみるものいいと思った。
(最近、こんな映画観た気がするな....孤島で繰り広げられる料理の芸術性と評論と権威の話....その映画でも最後に素朴な料理で我に返ってたような....)

境遇差別を描くのにネズミを用いたのも上手い。人間でやるより余程ポップだし、万国共通で「ネズミはキッチンにいてはならない」という認識があるため物語に入り込みやすくなる効果も生んでいる。

昔から大好きな映画だけど、髪の毛で人を操る設定だけはちょっとリアリティのレベルがごっちゃになってしまって、「?」な部分はある。ネズミが立って料理する世界観なのに人間側にも小細工を仕掛けるとよく分からなくなる。でもこれは1000点満点のうちマイナス1点くらいの些末な問題。あれ自体がギャグなのでOK。
キッチンの床一面にネズミがいる光景にウッとなってしまう人はいそうだし、リングイニの優柔不断さに多少なりともイラッとすることは確か。でも最後まで見届ければ、凄く優しい結末が待っている。

続編も無いし、この頃になるともう今見ても遜色無いくらい映像技術が発達してきているので、実はピクサー入門編として最もおすすめできる作品の一つかもしれない。


《第80回アカデミー賞戦歴》
受賞
★長編アニメ映画賞
ノミネート
⭐︎脚本賞
⭐︎作曲賞
⭐︎録音賞
⭐︎音響編集賞
Ren

Ren