シズヲ

向う見ずの男のシズヲのレビュー・感想・評価

向う見ずの男(1958年製作の映画)
4.0
若き流れ者が誤解からカウボーイ一家に追われる羽目になる逃避行西部劇。冒頭でそのへんの説明的な描写を挟まず、多数の馬が蠢くアクションで引っ張りながら「主人公がどういう状況に置かれているのか」を端的に伝えてくる構成の鮮やかさよ。外連味溢れるアクション演出がいちいち小気味良く、銃声が轟く岩場での銃撃戦やコマンチ族とのチェイスなどの印象的な場面に唸らされる。登場人物を的確に配置しつつフロンティアの自然風景を映し出すカットの数々も秀逸。後の『勇気ある追跡』もそうだったけど、ヘンリー・ハサウェイは絵面の撮り方が上手くて引き込まれる。

本作が印象深いのは主人公がめちゃくちゃ良いヤツという点で、人殺しを忌避したり他者への配慮を欠かさなかったりと相当の好青年として描かれているのが清々しい。撃たれた馬の介錯、殺した相手の馬への対応など度々見せる馬への優しさにも惚れる。これだけなら甘ちゃんっぽいけど単なる無抵抗な善人という訳ではなく、撃つときはしっかりと撃つし腕前も卓越している(それ故にアクションもきっちり魅せてくれる)というギャップが良い。

何より「主人公の善意に周囲の人間がちゃんと応えてくれる」っていう描写が顕著なおかげで全編に渡って人情味に溢れているのがグッと来る。そういった要素が悪役に対しても例外ではなかったのが良い。このへんは映画全体の泥臭さの不足にも繋がってるけど、純粋に暖かくて憎めない。主人公とのロマンスを披露する長女を始めとする大家族、横暴ながら曲がりなりに筋を通すカウボーイ一家の親父など、脇役・悪役のキャラ立ちも相俟ってその構図がしっかりと際立っていたのがやっぱり好き。アクションあり、恋愛あり、温もりありの素敵な娯楽作だ。
シズヲ

シズヲ