Oto

Movies-HighのOtoのレビュー・感想・評価

Movies-High(2002年製作の映画)
3.3
『透明なシャッター』(2004)

今泉力哉の初監督作品。(厳密には大学卒制の『ANTENA』という中編があるけどそのときは納得する出来にならずに一度映画を挫折したらしい)

【後の作品への片鱗】

父親の大病を口実に、夢である写真を諦めて就活を始める青年の物語。
15分の短編映画だけど、「やめる」ということがテーマだったり、家族やカップル間の他愛ない話(「眼科に行け」のくだりとか)が主だったりするので、既に今泉作品の片鱗がある。

セリフが所々面白い。去り際の「関係ないなら目の前でカメラ捨てないでよ」とか、病室の父の「そんなに自信あるなら俺のこと撮ってみろ」とか。
『こっぴどい猫』や『退屈な日々に〜』など後の作品にも通じる、恋愛におけるすれ違いだけでない、気まずいユーモア、死や別れが描かれているし、こう来るだろうなという返しを超えてくる。

次作の『此の糸』は恋愛ものらしいけど、今作はむしろホームドラマで、意外に思う部分もあるけれど、親子間の「素直になれないけどお互いを思い合っている」という人間ドラマは、恋愛と共通するものがある。
「写真やめて就活しろなんて言うなよ」っていう息子が、実は既に就活を始めていて、そう言われた父が「じゃあ写真で俺を撮ってみろ」っていう、本音と建前が入り組んだ関係性が面白い。妙な温度差。

【演出や脚本の裏側】

当時ちゃんと演出をするのが初めてで、編集のときにこんなに芝居っぽいのかと呆然したらしいけれど、たしかに今よりもカチッとした芝居に見える。温度としては、ロマンポルノとかに少し近いというか形式的に見えて、アフレコしてる影響もあるんだろうか。監督もたくさん撮りながら演出を学んでいったんだなと思った。

DVD収録されているのは15分だし、そもそも短編のシナリオの中から優秀作品を16mmフィルムで映像化できるという課題だったらしいけど、やる気がありすぎて長編向けにシナリオを書いていて、結果的に35分になったので卒業上映をしてもらえなかったらしい。逆にPFFにはこの時だけ1次に通ったとのこと。
詰め込んだ感じの印象というか、今泉映画らしい長回しとかFIXがあまり見られないのもそこに起因しているのかもしれない。この頃の短編はまだ事前に絵コンテ描いていたらしい。

https://cinemore.jp/jp/news-feature/1947/article_p4.html#ap4_1

その愚痴を、打ち上げで山下監督にぶつけたのをきっかけに現場やWSの手伝いで入れてもらうことになって、芝居を学ばせてもらったという経緯らしい。
卒業後にも自主を撮り続けたのがすごいなと思うけど、自主監督が短編を持ち寄る上映会が定期的にあったり、好きな人に作品に出てもらうことで、強制力を保っていたらしい。他の人の作品に興味がなくて、手伝ってもらうには面白いものを作るしかない、という追い込み方もしていたそう。

http://geikou.jp/今泉力哉さん4期生-視覚情報デザイン学科卒業/

※ジャケットとは違って『Movie-High 6』に収録されてるので注意。

【その他の収録作品】

『痩せる薬』

なぜか学校で激しいいじめに遭っている姉が原因で、誹謗中傷の手紙が大量に送られてくる一家だが、なぜか母がそれを段ボールに入れて全て保管しているという物語。

痩せる薬を偽ってクラスの人たちに毒薬を送りつけて重症にさせてしまったのをきっかけに、母親が急に優しくなって「無理して学校行かなくてもいい」と言われるという展開で、そこから10年以上も引きこもるというオチ。

地獄の家族ものというジャンルでいえば、後のアリアスターに近いものがあるかもしれない。コメディの雰囲気もあるけど、母親の狂気がやばくてだいぶホラーだった。弟の視点で描かれているので、姉の本心もあまりわからないようになっている。

加藤監督と今泉監督の昔のトークがYouTubeにあがっているけど、監督向きの人はむしろスタッフとしては無能だったりするんだなという発見。
当時から今泉さんは、人懐っこいというか、赤いカーディガンで目立とうとしてたり、トークすごい盛り上げてたりしてる。

※時間がなくて他の作品は見れなかったけど、学生時代の田中みな実が出ている『マリアンヌの埋葬』とか、村井美樹が出ている『ボクと彼女とりんご』とか、今も脚本家や監督として活動を続けている作家もいて、なんかいいな〜となった。
(長谷川)留亜さんという監督がいて、『窓辺にて』の元ネタのルアの元ネタかな?と思った。今泉さんも協力で参加されていた。
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