Oto

市子のOtoのレビュー・感想・評価

市子(2023年製作の映画)
3.8
令和版『悪女について』。あるいは『(500)日のサマー』を恋愛から関係者に置き換えた物語というべきか。
つまり、羅生門スタイルで視点を変えて、時系列も飛び飛びで真相が明かされていく。

「なぜ消えたか?」という倒叙型で始まるので、その先を気にさせる推進力はすごくあって、それに巻き込まれていく長谷川も魅力的なキャラなので楽しめた。
若葉くんはやっぱり巻き込まれる主人公をやらせたらピカイチで、相手を「反射」した芝居をするのでその場に完全に馴染んでいる。個人的ベストは、記念写真での近づき方と、階段での焼きそば(どちらもこの作品の中ではかなり少ない静的なシーン)。

若葉くん以外も「今泉組」が勢揃いで、倉くん・中田さん・中村さん…やっぱりいい役者ばっかりだなぁと感じた。助監が今泉映画の方だからその関係なんだろうか。
個人的にはファムファタールの中村ゆりが刺さりすぎて、『窓辺にて』を悠々と超えているなと感じたけれど、杉咲花も過去最高レベルのハマり役だと感じたし、「親子ファムファタール」って意外と新しいジャンルだなぁという発見があった。

一方で役者の芝居に頼りすぎてない?って思うところも多々あって、原作が舞台(戯曲)だったということを聞いて少し納得したけれど、演出めいたシーンの多さが気になった。
雨の中にわざと出て行って「全部洗い流して」って言うのは食傷気味でさすがにさめてしまったし、なんでそこでちょうど目撃してるの?(ベランダから覗く構造は面白いものの…)とか、タクシー乗せて全部話すのはさすがに説明的では?(トンネルという舞台を生かしてているものの…)とか気になるところがいくつもあった。

終盤もどう収拾つけるのか気になっていたんだけど、誰の視点にも届かなかった市子の視点でのメッセージで終えると言うのが、この作品のテーマと合っていることは分かりつつも、あまりにご都合主義な劇的演出に感じてしまって、感動して終われなかった。
そもそもヤングケアラー・親ガチャのような現実の根深い問題を描くのであればこの形式は邪魔なんじゃないか?、あえて強引に現実の問題と繋げなくてもよかったのでは?と、元も子もないことを感じてしまったし、あるいは無戸籍問題はあまりに認知がないので、もう少し真摯に描いた方がよさそうに感じたけけど、まぁエンタメとして楽しめる範囲のよいバランスなのかなぁ。。

オープンエンドではあるものの、戸籍の問題とかもかなりややこしかったから、あれ結局どっち?みたいなモヤモヤが完全には消えていないし、冒頭とラストに出てくるシーンの時系列もよくわからないんだけど、個人的にはなんとなく答えがあって、0から全てをリスタートしたのかなと捉えている。

好きだったところも色々。KVになっている車のライトの眩しさを目で覆うシーンはかなり素晴らしいなと思って印象に残った。
あとは市子が好きのものの理由を語るセリフが好き。「花はちゃんと水をやらないと枯れるから好き」「花火はみんなが上を見ているから落ち着く」など。ケーキというモチーフの反復もよい。

他者のわからなさというテーマにも共感は大いにあって、自分もわかられてたまるか&相手のことはわからないとよく思っているし、『怪物』で描かれたように事情をわからない外野がやいやい言うものだと改めて思う。
2023の邦画は「蒸発」を描いたものが多かったように感じる。アンダーカレントとか。「関係性リセット症候群」が流行語になっていたけど、常時接続時代への疲れがあるんだろうか。ほどほどにやっていきたい。

(体調崩してたので記録忘れ。2023ラスト映画)
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