Oto

笑いのカイブツのOtoのレビュー・感想・評価

笑いのカイブツ(2023年製作の映画)
3.5
伝説のハガキ職人・ツチヤタカユキの自伝小説の映画化。
創作や人間関係の苦しさへの共感はあったけど、あまりつかみどころがなかった…。

『キングオブコメディ』や『ジョーカー』の再来だと聞いていたので、あのような「狂気の爆発」を期待していたけど、ずっとそれが来なかった。
人間関係にうまくいかずに挫折した(=社会に馴染めなかった)だけで、自分の笑いが受け入れられなかったようには見えなかった(見せ場の居酒屋シーンがうまく行ってない)し、オチも母親との中途半端にハートウォーミングな感じで尻切れトンボ。

寡黙な主人公はやっぱり難しいな…天音くんの芝居はすごく好きだけど、人間関係のドラマが生まれづらいから、映画のはじめとおわりで大きな変化があるように思えない。彼女も東京行って出てこなくなるし、東京の人々も逆にそこでしか出てこないし。転々としたことで断片の羅列に見えた。
菅田将暉演じるピンクもあまり効いてなくて、ぜんぜん頑張ってない人に「地獄やのう」とか言われても、誰が言っとんねんって感じ(だからビッグな俳優使ってる?)で、嫉妬する一般人は松本穂香で十分だけどなぁ。

足立さん脚本もあってか『百円の恋』を連想させる、笑いに取り憑かれた「狂気じみた努力」は感じられてそこはよかった。やっぱりひとつにベットできる人はかっこいい。
タイマーで測りながらボケかいてたり、頭打ちすぎて血が出てたり、酒飲んで血尿でもかいてたり。周りにも命や精神を削って作ってる人何人かいるし、自分もその節があるので、その強迫的な執念への共感と苦しさは伝わった。「USJ行ってる場合じゃない」とか思うことよくある。

あと「純度」が高い人のやりづらさもわかる。氏家のように立ち回りだけ上手くて人のアイデアを集めて自分のものにする人も会ったことあるし、佐藤のように面白さよりも私情を優先する人も多い。「人間関係不得意」は自分も同じで、確実に損はしてる。
ただ彼はそれでも作り続けてるからそんなに救いがないように思えないし、ハガキ職人という形ではあれ評価はされてるからなぁ。「どうしても売れたい」という葛藤が伝わってこないから、今のままでも良くない?と思えて、単独のクレジットに名前があるのもそこまで感動できず…。

『だが情熱はある』の流れに便乗した感じに思えたのは、壁とノートに書き殴られた言葉たちというモチーフがあまりに山里さんと酷似していたからかもしれない。あとは社会性がすごく低い芸人像に少し食傷気味。コットンのような陽キャも増えてるし、自分と社会との折り合いつけてる表現者の方が、葛藤を感じて面白いけどな…。
ハイツ西野さん、久馬さん、女と男、テツジさんなど、芸人や劇場の登場も嬉しかったけど、芸人の裏側を描くものもかなりみてきたし、「ハガキ職人」「構成作家」ならではの、裏舞台にいる葛藤がもう少し見たかった。

自分も学生時代は芸人ラジオにハガキたくさん送っていたけど、読まれたい・笑わせたいという一心だった。
何者でもない人が「面白さ」だけで同じ土俵に立てる大喜利やお笑いっていいな…と思うけど、やっぱり2000ボケ考えるみたいな異常性の根源をもう少し知りたかったなぁと思う。

メモ
・セリフが全体的に聞き取りづらい
・菅田将暉は大悟さんみが強い
・Q&Aの反復よいけど、最後の「絶望」がいまいち
・令和ロマンが漫才監修…?あのネタどこかで見たことある
・皿がお題に見えるショット好き

(2024年1本目。風邪をこじらせて死にかけていたけどようやく映画がみられた…)
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