こたつむり

殺しのドレスのこたつむりのレビュー・感想・評価

殺しのドレス(1980年製作の映画)
3.5
ブライアン・デ・パルマ監督の真骨頂。

サスペンスとはジャンクフード。
「次はどうなるのか」という好奇心を満たすだけの代物なのです。ただ、実際のジャンクフードと違うのは、食べ終わった後に爪の間からコンソメの臭いがしたり、吹き出物が出来たりしないこと。だから、安心してバクバクと楽しめば良いのです。

そして、本作の場合。
監督さん自身も大いに楽しんでいるのが伝わってきます。

そもそも、冒頭からして。
公開当時49歳のアンジー・ディキンソンの自慰シーンですからね。いやぁ、心の置き場に悩む場面ですよね。しかも、肌の上に生クリームを塗ったような“優しいメロディ”が、やたらと心を撫で回してくるのですよ。下半身がぞわぞわしますなあ。

勿論、僕らのブライアン・デ・パルマ監督。
序盤だけで手を緩めるようなことはしません。
「必然性?何それ、食べられるの?」と言わんばかりに投入されるお色気場面。公開当時30歳のナンシー・アレンだってサービス、サービス。うん。本当に監督さん、ノリノリです。痛いほど伝わってきます。

そして、本作の冒頭が。
シャワールームから始まるのも意味深。
あの『キャリー』もシャワールームから始まりましたが、物語として必然性がありました。でも、本作は…他の場所(寝室とかキッチンとか)でも代用可能。それでも、シャワールームに拘ったのは…ヒッチコック監督の“某作品”が念頭にあったからなのでしょうか。

それを顕著に感じたのが、美術館での追走劇。
サスペンス的な演出でドキドキハラハラさせつつ、その後のムフフな場面に繋げる伏線にもなり、なおかつ“某作品”への敬意を溢れんばかりに感じる…という濃密な場面。いやぁ。本当にデ・パルマ監督はヒッチコック監督が好きなのですね。

ただ、さすがは僕らのデ・パルマ監督。
オマージュだけでは終わりません。オリジナリティ溢れるアクセントだってあるのです。それは“倒錯した性”。って、やっぱりエロ系ですか。いやぁ。監督さんも好きですねえ。「ほれほれ、これが観たいんやろ?せやろ?せやろ?」と喜々と迫る姿が思い浮かびますよ(註・監督さんは関西人ではありません)。

まあ、そんなわけで。
隠微な雰囲気と殺人と。
アメリカ版土曜ワイド劇場と言ってもおかしくない作品でした。何しろ、物語の途中でオッペン化粧品のコマーシャルが入っても違和感ありませんからね。あ、勿論、ブルボンでも東芝でも良いですよ。
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