けんたろう

噂の女のけんたろうのレビュー・感想・評価

噂の女(1954年製作の映画)
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誰が噂の女なのかよく分からないおはなし。


世の中の不条理をどうしても許すことができない、理想家の潔癖根性は、なるほど現実を生きる上では甘ったるいものなのかもしれない。そのうえ、間違った社会でしか生きられない生命を蔑ろにしてしまう恐れを孕んでもいるのだから、いよいよ大変である。
しかしその非現実性と危険性とを十分に解しても、なお理想を見続け、そうして現実の上を歩いていくというのは、きっと大切なことであろう。特段理想を果たすという訳ではあるまいけれども、(なぜなら、それは、ほんの一歩間違えれば虐殺の道を歩むことになるのだから。)"強く生きる"とは、きっとそういう事なんではないかと思うのだ。

だからこの雪子さん(久我美子)のドラマは、共感と首肯とが相まって、まあ心地よく観られた。
(なんだか…それこそ"甘ったるい"物語であったから、余韻という余韻はそれほど残っていないんだけれど。)

男はともすると無神経かつ鈍感になりがちである。そのくせ、途方もないことを考えがちである。そうして残念なことに、僕は男である。
…なるほど、他に仕様もあるまい。ここはひとつ、雪子さんを模範として生活するとしようか。