まさに薄命の美人といったトリスターナを演じたカトリーヌ・ドヌーヴ。
可憐な少女から冷たい女まで幅広い演技をこの作品だけで観ることができる。
彼女が運命からは逃れられないこと、また人間の弱さと醜さが痛切に描かれている。
キリスト教嫌悪と美しい女性への執着というキャラクターは、ブニュエルの分身なのだろうか…。
今回の主人公もそうである。
しかし弱者には優しい。生活のため仕方なく盗みをはたらいた貧しい者の肩を持つ一面もある。
妻もおらず寂しい悲しき老人。
彼は養女となったトリスターナを女として見るのである。
この男の立場とトリスターナの立場の変化こそがこの作品のキーであることは間違いない。
トリスターナの服の色が黒から茶色への変化、そして彼女の表情がまるで違う。
閉塞的な生活を送る二人は、俗世に染まっているようで、それと同時に俗世から浮いている。
なんとも不思議な雰囲気を漂わせ、それこそがこの作品を不気味だと感じる要因であろう。
彼女の見る悪夢の意味することが実は全てを集約していることがもはや切ない。
罪悪感と自分の意思が相反してしまう、その葛藤ぶりから、振り切ってしまうことで自分を見失い、人間性まで欠如しかねないトリスターナの状況に、同情の念を感じざるをえない。
フラッシュバックしてしまう記憶の数々は、悲しくも初心へ立ち戻る契機になってしまったのだろう。
唐突かつ怒涛のラストこそ、トリスターナの脳内をそのまま描写したものなのだろう。