秋日和

幸運の星の秋日和のレビュー・感想・評価

幸運の星(1929年製作の映画)
5.0
チャールズ・ファレルからジャネット・ゲイナーへプレゼントされたレコードが暗闇の中できらりと光った瞬間、画面上に星が現れた、と思った 。二つの意味に於いて汚れた手をサッと隠す彼女。その悪いクセさえをも洗い落とすかのように、チャールズ・ファレルは彼女の手を取り、開かせ、そして綺麗に水で汚れを流してあげてみせる。車椅子の為にダンスをすることができない二人にとって、そのときに挿入される手と手を取り合うショットは、まるで男女が踊る前にする行為をささやかに模倣しているみたいだった。
電信柱を始めとして、濃やかな高低差演出が施されている本作だけれど、何よりも胸に突き刺さったのは、出逢ったときの上下関係が再会したときに反転していると知った瞬間だったりする。それは物理的な位置関係(所謂見上げる/見下ろす、というやつ)もそうだし、精神的なものでもある。例えば、出逢ったときのように、チャールズ・ファレルは彼女のお尻にお仕置きを与えられないだろう。そもそもジャネット・ゲイナーはとても小柄な女優で、それは彼女を狙うもう一人の男とダンスをするときに、「同じ目線で見つめあえる」ようにと言わんばかりにその身体を持ち上げられたことからも明らかだ。もしも、そんな小さな彼女とチャールズ・ファレルとが「同じ目線」にいようとするならばお互い椅子に座らなければならない。そうしないと、彼女は彼を見下ろしてしまうからだ。
この映画の終盤に登場するとあるショットが強烈な印象を与えるのは、そういった事情が観る者の頭を過るからじゃないかな。こんなにも美しく実を結ぶ高低差演出を初めて観たし、全ての画面が集約されたかのような瞬間を目撃した気さえする。お節介を炸裂させちゃうチャールズ・ファレル。大好きな彼女を輝かせる為に施した取って置きのリボン、そして卵シャンプー。本当に幸福な100分弱だった。一年に一度のオールタイムベスト。
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