まりぃくりすてぃ

オリーブの林をぬけてのまりぃくりすてぃのレビュー・感想・評価

オリーブの林をぬけて(1994年製作の映画)
5.0
撮られた人たちも、撮った人たちも、それを観る私たちも、みんなみんな、温かい血の通ってる “精一杯の命” なんだな。キアロスタミの三つ (クローズアップ、オリーブ、桜桃) を観るたびに、私は単なる映画鑑賞者なんかじゃないって思う。人生を、愛を、ひたむきさを、哀しみと期待を、いろんな大切なことを私に教えてくれる。そういう、心を打つものがずっと好き。

小学生の時に映画館で初めて、これ含むジグザグ道三部作ほかイラン映画群を一気見して、『クローズアップ』以外は大して気に入らなくて、ぶっちゃけ三部作こそが特に評判倒れとさえ思っちゃった。そんな中、この完結編『オリーブの林をぬけて』だけは、終盤がけっこう味わい深かったかなと。
ただ、片思いするホセインよりも片思いされるタヘレにはるかに感情移入して、ストーカー物語だよねって苦笑ぎみだった。
でも、一緒に観に行った母 (残念なことに彼女は『友だちのうちはどこ』は当時未鑑賞でこっちから観た) が、後で私らに、ホセインがタヘレにお茶を淹れてあげる場面が一番心に残ったと語った。「僕が君に、君が僕にお茶をあげる。それが人生だ」と必死に口説くそこに、私は「そういえばそういうところもあったね。お母さんは家庭の女の人だからだね…」って微笑ましさ先行の思いしか。。

でも、二十数年ぶりに本作観て、私はそのお茶のくだりも含めてもうありとあらゆる場面で涙流してた。そりゃ、あいかわらずストーカー映画だとは思ってるよ。でも、でも、、ホセインの必死さや稚さや意地や分別や優しさや慎ましさや情けなさ、すべてにストレートに感涙させられてる私がいるの。全面的にいるの。タヘレの困惑はそのままに、この私も「生きたい。頑張って生きたい」って。「みんな、生きようね。これからも」って。。。
私には、キアロスタミ作品は、映画じゃないです。人生と社会の温かい教科書。紙だとしたら、その紙が生きて皮膚呼吸してて。。
ホセイン役にも、タヘレ役にも、今会っていろんなことを訊いてみたいな。幸せに生きてるよね? 私も、頑張るからね。。
フィルムも呼吸してて、映画自体が呼吸してた。映画よりも人間一人ひとりのほうが重要、ってことを美しく語ってる、そういう、、“映画じゃなさ”を、映画がさらに包み込んでて、こんなに優しい。。。。

あと、女性助監督役シヴァさんのキビキビが今回とても気持ちよかった。