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「A」のmingoのレビュー・感想・評価

「A」(1998年製作の映画)
4.2
美大に入学してすぐのとき、ドキュメンタリー作品で日本が世界に名を轟かせた原一男「ゆきゆきて神軍」と森達也「A」は必ず観ろって、狂った先公に言われた。

それから大学を卒業して、はじめて入社したデザイン事務所で「〇〇会」という新興宗教に入らないかと終電まで説得させられ戦慄したのもいつかの話。はいるかっ
宗教というジャンルだけは世の中のどのジャンルより最もナイーブで、肯定も否定もできない。

村上春樹の「アンダーグラウンド」は読んでいたが、先日地下鉄サリンから約20年ということで重い腰をあげやっと観た。森達也「A」

事件が起こった当初小学3.4年生で、怖すぎて布団に包まってテレビの報道を観ていたのを覚えている。「音が怖いよ〜」「あんたはもう寝なさいっ」
あれから20年。現在マスコミのデザイナーをしているが、先日先輩から地下鉄サリン事件の当時のことを聞いた。「丸ノ内線だけ動いてたんだよ〜w」呑気なものである。

物語はオウム真理教広報部の「荒木浩」に絞り、オウム内部から日本の社会を俯瞰するといった内容。オウムは悪、社会は被害者という多くの人が無意識に下していた判断を「オウムとは何か」というより「人間とは何か」という根源的で困難な問いに引き戻す。

「どこまで何が本当なのか私が知りたいんですよ」と荒木氏が言ってるように彼は道徳心に溢れており、ただ社会のルールに疑問を感じ自ら入団した1人で、(学生たちと質疑応答をしているときの荒木氏はどこか寂しげな表情をしていたのは印象的だった)むしろテレビ局や警察の方がよほど横暴で(ヤラセにも見えるほどの公務執行妨害だといって現行犯逮捕するシーンは見所だ)、言っていることに筋が通っていないと思える場面が多かった。
現在と違い当時はSNSやインターネットがなかった時代だからこそのマスコミの報道は圧倒的な影響力を持っていたと思われる。その特異で狂ったジャーナリズムや、執拗に問いただす報道陣からは正義や悪とは違った人間の嫌〜な本質が浮き彫りになり、吐き気をもよおす。

そして本作では肝心の「なぜこんなことになったのか」という問題提起はなされていない。描かれるのはひたすら修行に励む信者たちの姿で、教団にとどまり続ける彼らを追ったドキュメンタリーなのだが、オウムは現在も名前を「アレフ」に変え存在している。信仰に走らざるを得ない社会の闇を描いた本作はすべての大学生の必修映画にしてもらいたいくらいの映画である。

正義と悪の境界とは、正しい正しくないの定義とは、人間という生物は何か、宗教とは何か、ありとあらゆる疑問が休む間もなく投げかけられる。
そしてキスさえしたことがない純粋な主人公の葛藤とともに、森達也のオウムよりの視線に、観るものは揺さぶられる。
扇情的な歌を流すなどメッセージ性が多少強く、中立性の強い作品ではないが、オウム=悪という脚色をつけることに反感して撮ったアンチプロパガンダ色の作品である。

本作を観ても答えは出ないし、ましてや心にストレスがかかるくらいと言ってもいい映画かもしれない。しかしここまで考えるための教材としての映画は他を見ないと思います。観ずして死ねません

オススメ星、無限大!!!
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