茶一郎

夏の夜は三たび微笑むの茶一郎のレビュー・感想・評価

夏の夜は三たび微笑む(1955年製作の映画)
4.3
 「『魔術師』の魔術披露前夜、『ファニーとアレクサンデル』1部のクリスマスの夜、ベルイマン作品の夜に愚かな男とクレバーな女性が登場すれば決まってエロスなコメディ、艶笑落語的喜劇が完成します。そんな「エロコメディ」の路線を突き詰めたベルイマン作品が本作『夏の夜は三たび微笑む』です。

 「神の沈黙」やら「神の不在」やら、何かと小難しく見られがちなベルイマン作品ですが、この『夏の夜は三たび微笑む』を難解に語る人も少ないと思います。主人公エーゲルマンが「喜劇だ!」と、劇中で種明かしするように本作は全編が非常に愉快。
 しかし「愛というものを少し斜に構えて見てみよう」というベルイマンの製作意図通り、登場人物にとっては少し残酷な愛の物語に仕上がっている。『ゲームの規則』、マックス・オフュルスの『輪舞』のように男女がパートナーを入れ替え、愛を育む恋愛模様をベルイマン的映像センスで捉えた悲喜劇でした。
 
 ベルイマンが突き詰めていた「生と死」、その二つを繫ぎ止める「性」。それ以上に「北欧の夏が若者の駆け落ちの舞台になっている」、「神への不信」、「偏屈な男の反省」と、ベルイマン的モチーフがふんだんに語られ、最後には大いなる生の肯定を高らかに宣言する。
 こんなに多幸感に満ちた映画が他にありますでしょうか。
茶一郎

茶一郎