けんたろう

ぼんちのけんたろうのレビュー・感想・評価

ぼんち(1960年製作の映画)
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京さん、若尾さん、越路さん、僕も湯船に入ってよろしゅうございますかなおはなし。


女遊びに現を抜かす若旦那…所謂"ぼんぼん"が、戦前戦中そうして戦後の、大阪は船場にて、立派な"ぼんち"へと成長する又はしない過程が描かれる。
まあ父と息子と妾とババアによる、万事が万事その通りに進むだけのものであり、そこにドラマというものを感ずる事はあまりできず、正に過程といった印象でしかないが。
しかし終盤には全く環境がために、彼の物語は、彼ならざる物語であったのだと気付かせられる。なるほど秀逸な演出。結局、屈強な女たちに翻弄されていただけなのかと思えば、すべて自業自得に思えた男の身の上も、やはり哀れなりと同情せずにはいられなくなってしまう。面白い。

そうして俳優・市川雷蔵。
彼の声や顔を思えば、他にこの役に当てはまる人物など想定できようがない。いよいよ僕は、この人の魅力に気付いてしまったのかも知れない。


最後に一つ。
忘れがちな或る人物の存在に就いても、たいへん面白かった。最後の台詞、そうして幕引きに於いては、劇中の世界にいよいよ吸い込まれる感覚に陥ってしまう。
思えば、オープニングから既に本作にはひきこまれていた。お婆ちゃんを映すカットまでもが陰影に富み、身体中がゾクゾクしてしまっていたのだ。

市川崑…うん。いい頃合いかも知れない。そろそろ、世に名高い、あの昭和傑作ミステリーを観るとしようか。