こたつむり

es [エス]のこたつむりのレビュー・感想・評価

es [エス](2001年製作の映画)
3.9
★ 【レポートNo.01101】
  限界条件における人間の役割について

人間は自分が見たいものを見る。
だから万人が傑作と褒める映画も駄作と貶す映画も存在しない。対象となる映画から想起された感情が映画の評価を定めているに過ぎないからだ。

但しその感情を特定の方向に向けるのは可能である。一方的な暴力を描くにしても加害者側に道理を与えればストレス解消に繋がるし、被害者側に道理を与えれば新しい暴力を生む禍根となり得ることだろう。それは脚本を如何に演出するかという権限をもつ監督が決めるべき大切な要素である。

そして本作で監督が選択したのは登場人物ではなく人間全体を包括する視点だった。「刑務所を模した場所に囚人役と看守役を配置して彼らがどのように変化していくか」という実験は人間の表層を剥がす舞台装置に過ぎないので個に方向性を与えることが出来なかったのだろう。

しかし監督は悲観論者ではない。
見栄や欲望や主義や主張とは別に本能と結びつく形で高尚なる概念が存在すると信じているのだ。ゆえに物語冒頭から実験に結びつかない映像が幾度も挿入される。皮肉的に捉えれば三文小説のような展開だが主題を考えれば必然なのである。

然るに気付くのは誤解を招く表現であったことだ。本作が第二次世界大戦で極限を経験したドイツで製作されていることから人類最大の悲劇を想起するのは当然とも言えるし釈明の余地を欲しがっているようにも見える。しかしそれこそが見たいものを見るという事実に過ぎない。

また注意深く観察すれば多くの行動に理由が存在することは明白である。その有機的な繋がりと不安を煽る音楽の組合せは本作の方向性を見事に作り上げた。但し実験の諸条件については説明不足も散見されるので一考の余地はある。

何はともあれ作品が実際に存在した実験をモチーフにしていることを知れば考察が深まるので鑑賞後に調べてみることを積極的に薦めつつ、無い頭を駆使したものの句読点を削り過ぎて読む気が失せる文章になったことを反省し、文字数に制限が無ければ延々と続けることが出来たと嘯きながら本文を〆るのであった。まうまうよー。
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