ろ

ファニーゲームのろのレビュー・感想・評価

ファニーゲーム(1997年製作の映画)
5.0

卵を貸しただけなのにーーー。(スマホを落としただけなのに)

理由が分からないって、それだけで理不尽なことなのかもしれない。
わたしはディストピアが好きでジョージオーウェルやディックが大好物なんだけど、彼らは大抵「どうしてこうなったか」を説明してくれる。人口増加を抑えるためとか食糧がなくてとか、その社会にとっての当たり前を維持するためには”理不尽”も必要だったのだと語られる。
だけどこの映画で描かれる”理不尽”に理由なんてない。
どうして俺たちをこんな目に遭わせるんだと聞いても、生まれ育った環境のせいなんですよ~とかお金欲しくて~とかそれっぽい理由を適当に並べるだけで、彼らは1円も盗っていかない。

災害に理由なんてない。エンターテインメントに理由なんていらない。
襲われた家族にとって彼らは災害だし、彼らにとって家族を襲うことはエンターテインメントだった。しかも監督は犯人たちに都合よく物語を進める。一人が死んでも一人がリモコンを巻き戻せば生き返る。映画の中で殺されていく家族に対してだけでなく、観客への理不尽も徹底している。
だからこそ、こういう展開になってほしい、せめてこどもだけは助かってほしいなんて期待は早々に裏切られる。そのくせ、「人間以外の動物、異変に気付きがち。そして一番初めに殺されがち」「家の2階にあがったら死亡フラグ」「ヒッチハイクで止まってくれた車の運転手、だいたい犯人」みたいなあるあるはきっちり押さえてくれてて嬉しい。
特にゲーム再開の合図に転がってくるゴルフボールなんか、キタキタキタ・・・!ってわくわくしちゃう。ずるいよハネケ。

殺される瞬間は1ミリも映らない。
ただ画面の外から誰かの悲鳴や殴打の音、痛みに耐えようとするうめき声が聞こえる。
カメラはその瞬間を目撃した人物の表情をとらえて離さない。恐怖を直視した瞳は凍り付き、じわじわと絶望する。
血しぶきを浴びたブラウン管から、まるで飛び回る蝿のようなエンジン音がする。淡々と流れるカーレースのテレビ映像とリビングの惨劇。その温度差が好きだった。

タマゴだってゴルフクラブだって凶器になる。
友人に助けを求めるために使ったケータイすら命取りになる。
殺される理由を知ろうとしても無駄、神に祈っても助けは来ない。
災難を遠ざけよう、不安を解消しようとして、逆にどんどん抜け出せなくなる。

なんでもテレビのリモコンで巻き戻せたらいいけど、そう都合よくもいかないよね。あ~世知辛い。だからこそこれぐらい不条理なものを観るとスカッとする。

映画という名の虚構だって本当は現実だし、映画を観ている私もまた現実。何はともあれ人生は続く。
私も生きるのがんばろう。


( ..)φ

ず~~~っと観たかった「ファニーゲーム」。
夏の映画だから夏に観ようと何年も温め続け、今年ようやく観ることが出来ました。まだ暑いうちに観れてほんとよかった、滑り込みセーフ!

オープニングでいきなりぶっ飛んじゃう音楽も、ラストシーンで回収される伏線も、とにかくいやらしくて大好き。すごく面白かったです。
来年の夏はプールですごい顔してるパッケージの「コード・アンノウン」を取り寄せたいな。
ろ