リコ

ル・バルのリコのレビュー・感想・評価

ル・バル(1984年製作の映画)
5.0
大傑作。エットレ・スコーラのフィルモグラフィの中でも最高作のひとつ。
台詞なし、踊りだけでストーリーをつむぐ2時間を全く飽きさせない。
と言うか、そんな大仰な表現は避けたくなるほど、最初から最後まで楽しくて華やかで、ひと匙の哀愁が後をひく作品。

パリの下町のボールルーム=ル・バル、今日も今日とて店主が灯りをともすと、続々と着飾った老若男女が集ってくる。
ネオンとミラーボールが煌々ときらめく中で、女たちは椅子に腰掛け、男たちはカウンターで酒を飲み、お互いに視線を交わす。このゾクゾクするようなイントロダクションで、「こりゃー良作かも」と予感した。
そして時代は遡り、30年代。人民戦線の活躍に沸く若者たちが陽気にワルツを踊る中で繰り広げられる恋のさや当て。
40年代、ナチス占領下の不穏な時代と「リリー・マルレーン」。
解放されたパリに流れるグレン・ミラーのスウィングジャズ。
コカコーラとロックンロールに侵略された50年代にはアルジェリア戦争の影が差し、68年の五月革命の若者たちが夜な夜なビートルズで踊りだす。
そして現代。ディスコミュージックにのって、それぞれが思い思いに踊り、男女はもはや寄りそって踊ることもなくなった。やがてネオンが消される時がやってくる…。

ダンスホールの音楽の移り変わりで時代を描くというアイデアは、原作の舞台劇の設定ありきだが、所々にストップモーションやクローズアップの多用、ホールから奥へと進み化粧室でドラマを展開させるなど、映画的手法で緩急をつけていて、決して単調に見せない。場所を限定するドラマは、スコーラ監督の得意技だが、これほど「目的」と「手段」が合致していた例は他に『特別な一日』ぐらいではないだろうか。
そして何といっても、舞台劇にも出演した「テアトル・デュ・カンパニョール」の役者たちがそれぞれ個性的で表情豊か。彼らの演技(マイム)を見ているだけで2時間があっという間に過ぎてしまった。カーテンコールでは、TVに向かって手拍子を打ちたくなるほどだった(実際ちょっとやってみた)。

もちのろん、DVDで欲しくなる作品だが、VHSだと曲ごとのタイトルとダンスリズムがカラオケのテロップみたく表示されて、何ともいえないキッチュさがあるのが妙に魅力的でもある。
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