けんたろう

東京の女のけんたろうのレビュー・感想・評価

東京の女(1933年製作の映画)
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貧しくも美しき人々にどうか光りを。


嗚呼、尋常ならざる心の有り様をも、強いて強いて身内に仕舞ひ込まんとする、其の強さよ。然うして其の美しさよ。断言しよう。最も辛いのは此のひとである。だのに、精神の強さがゆゑ、気に掛けてくるゝ者は何處にも無い。
胸糞悪し。皆んなが、弱き者を気に掛ける。だが、強き者へは、誰れも何も掛けてくれやしない。果たして、大人に成るとは屹度斯ういふことなんかしらん。

さて、本作に在りし者は、哀しい哉、ガキ二匹と大人独りとであつた。

私しは、此のどうにも弱きガキ──春江(田中絹枝。若い!)といふ名の野暮たき女と、良一(江川宇礼雄)といふ名の便所虫にも劣らぬ間抜け──に、どうにも我慢がならん。
特に此の青年は、文字通り己れの為め"だけ"に生きて来て呉れた姉さんの気持ちを、丸で慮らず、たゞ打つて、ひとり拗ねて、挙げ句──とんだ仕打ちを与へるのだ。一体、良一め。何が「信じる」だ馬鹿野郎。言葉の重みも知らぬ似非者め。どれだけ格好つけようとも、貴様はガキである。ひとの心を包容できぬのだ。ガキである。私し、其の余まりの愚かぶりに、甚だしき嫌悪の感を覚ゆ。

然うして、対する美しき姉さん(岡田嘉子)。再三には成るが、最も辛いのは此の人である。にも拘らず、周りからは責められ、思ひやりてくるゝ者も居らず、──。嗚呼、此んな身の上が在つて堪まるか。良一は姉さんは馬鹿だと罵つたが、一体馬鹿はどつちなんだつてんだ畜生め!

嗚呼、救ひの無い物語り。然うして衝撃の結末。
小津さん。アンタ、此んな作品も撮つてゐたのか。