LalaーMukuーMerry

サンダカン八番娼館 望郷のLalaーMukuーMerryのレビュー・感想・評価

サンダカン八番娼館 望郷(1974年製作の映画)
3.9
お隣の国と戦時中の慰安婦のことが国際問題になっている(私は慰安婦という言葉が嫌いだ、いかにも何かを隠そうとしている響きがする)。この作品は違うといえば違うけれど、大きく括ってしまえば同じ問題を扱っている。江戸時代の末期頃から終戦頃まで、九州の天草地方にいたとされる「からゆきさん」と呼ばれる人たち、多くは貧しい家庭ゆえに身売りされて東南アジアの街で娼婦として働かされた女性たちだ。サンダカンとは北ボルネオ(マレーシア領)東部の港町。
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ノンフィクション作家、山崎朋子が天草で出会った「おさきさん」という一人暮らしの老女とその家で1か月近く生活を共にして、彼女から聞いた身の上話をまとめた同名の作品が原作。こんな人がいたのですね。
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気になったのは娼婦という存在に対する社会の寛容さの変化。他の本でも読んだ気がするが江戸時代から明治時代を通じてかなりおおらかだったようだ。彼女たちの稼ぎと送金によって本国で暮らしが成り立っていた人たちもいた。それが今のような意識になったのは、西洋の道徳観や社会通念が浸透して来てかららしい。特に大正末期から昭和にかけて、日本が国際社会で西欧列強に伍するようになった時代に、掌を返したように娼婦の存在そのものが恥ずかしいということになった。(昔の方が良かったと言うつもりは毛頭ないが)時代に翻弄されて居場所がなくなってしまったからゆきさんたち・・・
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原作者がこの作品を書かなければ、からゆきさんたちはおそらく歴史から忘れ去られていたのだろう。見るにはちょっと重いけど、知っておいた方がよいかもしれない作品。田中絹代(=おさきさん(老婆))、高橋洋子(=若い頃のおさき)、二人の熱演が凄いです。