Ren

ペイ・フォワード 可能の王国のRenのレビュー・感想・評価

3.0
導入から『イエスマン ~』的な普遍の思考実験ヒューマンコメディドラマとして観始めた自分が誤りだった....。どんどん様子がおかしくなり始め、キリスト教ど真ん中へ着地して終わる。賛否分かれて然るべき映画だ。

善行を3人に分け与え続け、ネズミ講さながらこの世界を変えていこうとする少年トレヴァー(ハーレイ・ジョエル・オスメント)と周囲の人々の話だけど、コメディや感動の前に単純に初期設定が重い。
父親は家を出、母親はアルコール依存症。そんな中で少年はそれでも世界を変えようと動き始める。

トレヴァーが理由も無く聖人すぎる。開幕からホームレスの男性を家に上げてお小遣いを渡す。見返りの無い善意を分け与える代わりにこの善意を繋いでほしいと輪を広げていくのだが、その思惑が遅々として進まない(ように見える)のが今作の妙。
単なる自己啓発と異なり、変化の対象が他者にある為成功のハードルが非常に高い。故に、変えられなかったときの寂寥感が募っていき作品のテイストが湿っぽくなりやすい。少なくともカラッと笑えるコメディにはなり得ない。

そんな温度感で語られるのは、作中幾度と無く繰り返される「世界は元よりshitだ」という価値観。でも、それでも少しずつでも善によって変えられるかもしれないという祈りのような映画であった。この辺りは『ディープ・インパクト』にも感じたミミ・レダーの性善説思想が反映されているかもしれない。

完全に賛否を分けたラストの展開、ザッと見ると「お涙頂戴のための行き過ぎた過剰な展開」という論がやや優勢のように思えるけど、自分は「ここまでやってまだノーマルな人間ドラマとして観ている人が多いんだ」と少し面白くなった。自分も日本生まれだけど、無宗教(便宜上この言葉を使う)の人が多い日本だとこう観られるのかなと思ったりした。

トレヴァーは聖人君子で人外の神。これは確定でいいと思う。
観ている途中は、トレヴァーとシモネット(ケヴィン・スペイシー)のW主演構造が散漫でもう少しスマートに纏めたら?と思ってしまっていたけど、各々が人外代表と人間代表と考えたら必然だと思えた。多分ドラえもんとのび太みたいなもの。
だからあのラストもトンではいるけど溜飲を下げることはできた。そもそもトレヴァーはそういう星の下に生まれた者であることは十分そこまでの展開で伝わっていたから。トレヴァーという名のキリストの物語だ。

その上で、本編と同時並行で綴られる記者パートはバランスが悪いなと思った。ただでさえ主役のように据えられるキャラクターが数人いるプロットだ。終盤に構造の捻りが明かされるけど、殆どそのためだけにあるサブストーリーはもっと短くてよかったのでは?記者サイドのさらにサブキャラの回想シーンとか、必要とは言えかなり遠いぞ。

その他、
○ トーマス・ニューマンの劇伴良き。
○ ジョン・ボン・ジョヴィ一瞬気付かなかった....。
○ ラストカットの大スペクタクル。この広がり。まさに王国。
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