ティムロビンスに激似

タクシードライバーのティムロビンスに激似のレビュー・感想・評価

タクシードライバー(1976年製作の映画)
5.0
主人公トラヴィスは、「浄化作戦」決行前に自分に関係する人々に宛てて手紙を認める。
一つは両親に、一つはアイリスに。
その中で私が注目したのは、劇中で宛先をはっきり示さずにトラヴィスが書いた、もう一つの手紙だ。
その手紙の内容はトラヴィスのモノローグにより明らかになる。
どうやら、トラヴィスは地元の仲間たち、あるいは子供達に宛てているように聞こえる。

さらに、トラヴィスが手にしている手紙の形状にも注目したい。
便箋ではなくカード風の紙に書いているが、スカーフをした人物のイラストともに、「scout」の文字が見える。
関係者であればハッとすると思うが、明らかにボーイスカウト関係者宛に書いている手紙だ。

アメリカ映画において、「ボーイスカウト」はしばしば「公明正大」さを象徴し、「四角四面さ」を揶揄するモチーフとなる。
何気ないシーンではあるが、トラヴィスがボーイスカウトだったという事実は、トラヴィスの行動原理を端的に表しているのではなかろうか。
なぜ彼がアイリスの更生を心から願い、「この街を浄化したい」という正義感に駆られるのか。
自分はこれだけ清く正しく生きているのに、周りの人間、とりわけベッツィーは自分を認めてくれない。
むしろ、自分とは正反対にいい加減に生きている連中が良い目を見ていやがる・・・。
トラヴィスは自身の「公明正大」な性格ゆえに、うまくいかない自分の人生との折り合いをつけることができず、煩悶しているのだ。

アイリスの「ヒモ」をしているスポーツ。
スポーツの自宅らしき部屋でアイリスに甘い言葉をかけ、レコードが奏でる音楽に乗せてアイリスを抱きしめる。
音楽は本作のテーマ曲であり、甘く切ない旋律が印象的だ。
やがてその音楽に不穏な音がオーバーラップし、射撃練習をするトラヴィスのバストアップに切り替わる。
先ほどの甘いラブシーンとは打って変わり、片目を瞑ったトラヴィスが、銃口を観客席に向けて撃ちまくる。
「畜生!今に見ておれ!どいつもこいつも、この俺が浄化してやる!」

歪ではあるが、彼なりのまっすぐで純粋な想いに、私は共感せずにいられない。
特にベッツィーとのくだりは、まるで自分自身を見ているような、胸を掻き毟られるような言い知れない感情を抱いてしまう。
私自身も幼少時からボーイスカウト活動をしており、必死に「公明正大」に生きてきたつもりだ。
しかし、うまくいかない、報われない瞬間に出合うと、ついトラヴィスのような感情を抱いてしまうことを白状する。
それだけに、トラヴィスの気持ちは良く分かるし、ラストの壮絶な銃撃戦には血湧き肉躍った。

スコセッシ監督は、本作の公開時、映画館の列に並ぶ観客たちを見て戦慄したらしい。
本作のトラヴィスのようにアーミージャケットを身にまとい、鬱屈した表情の若い男性たちで溢れていたからだ。
男は誰しもトラヴィスを心の中に飼っている。もちろん、この私も。